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波の音が聞こえる場所で
第8章 取り調べと化した久須美の面接についての一部始終
「大学を辞める覚悟で冒険に出たんです。それに僕は二十を超えた大人です」
「二十を超えた坂口君に訊ねるんだけど、大学の入学金とか誰が出したの?」
「両親です」
「予備校にも通ってたよね、けどその費用は?」
「両親です」
「二十を超えた大人にしてくれたのは誰?」
「両親です」
「坂口君さ、君借金だらけだね」
「借金?」
「そう、借金。いつ返すの?」
「……いつか恩返しをしたいかと思ってます」
「それで取り立て屋は納得する?」
「取り立て屋?」
 素っ頓狂な声を出してしまった。
「取り立て屋さん、黙ってないでしょ?」
「ばれなければ大丈夫です」
 もう僕は支離滅裂な答えしか浮かばなかった。
「ばれるよ、だって僕ちくってやるもん」
 五十を過ぎたおっさんの言葉じゃない。
「ちくるのだけは勘弁してください」
 僕はここで気付いた。僕と久須美は今漫才のリハーサルをしている。会話を正常に戻したいのだが……。しかし久須美は怯まなかった。
「何だったら僕が取り立て屋に電話しまくるけど」
「それだけは……ご勘弁を」
 投げられたボールを素直に受け取る僕は実に滑稽な人間だ。
「坂口君返そうよ、利子をたっぷり付けてさ」
「はい」
 何だかうまく誘導されてるみたいだ。
「はい、入社条件その一」
「入社条件?」
「大学は絶対に卒業すること」
「わかりました」
 取り合えずこう言っておけば条件はクリアでき……なかった。
「まさかとは思うけど君の『わかりました』って口先だけじゃないよね?」
「必ず卒業します」
「言質取ったからね。後になって知らなかったではすまないよ」
「約束は守ります!」
 すでに僕は勢いでものを言っている。後悔は直ぐにやって来た。
「何か問題?」
 久須美は僕の戸惑った表情を見逃さなかった。
「あの、多分なんですけど、大学には通えません」
「どうして?」
「どう考えても無理です。ここ新潟の寺泊ですよね?」
「そうだけど」
「R大学は東京にあるんですけど」
「だから?」
「僕、新潟からR大学に通っている人間見たことないです」
「坂口君が先駆者になればいいじゃん」
「そうしますとですね、交通費だけで僕の懐具合がとても、というかめちゃくちゃ大変な状況になるんです」
「世間ではそれを自業自得というんだよね」
「自業自得?」
「だって坂口君の冒険なんでしょ。それって坂口君の問題だよね」
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