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波の音が聞こえる場所で
第8章 取り調べと化した久須美の面接についての一部始終
 僕は目に見えない取り立て屋に怯えたわけではない。そもそも取り立て屋なんかに追われる覚えはないし、仮に追われたとしても今の僕には支払い能力がない。もし取り立て屋が僕の目の前に現れたら、僕は全裸になってこう言うだろう「取れるものなら取ってみろ」と。 
 しかし、久須美の硬軟織り交ぜた取り調べ、ではなく面接に屈服してしまった。僕の性癖(四十以上の熟女にしか性欲を感じないという類まれな性癖)と東京でいろいろやらかしたことについては、黙秘権を行使した(権利を行使したことについて後ろめたさなんて微塵もない)。
 今久須美は電話で僕の母親と話している。かれこれ三十分、久須美はときおり笑いながら僕の母をうまく言いくるめている……のではなく説得している。 
 久須美が強調している点はただ一つ。必ず大学を卒業させます。ここから大学に通って貰います。どうか私に任せてくれ。ということを集約して繰り返し僕の母に言っている。
 久須美がどういう生き方をしてきたのかわからないが、めちゃくちゃ話が上手い。そういう話術は一日二日で身につくものではない。まぁ人間五十にもなればそういうのは自然と出るものなのかもしれないが。
 母との話し合いが(説得だと思う)がひと段落したのか、久須美は受話器の送話口を手で押さえ僕にそれを向けた。
「坂口君のお母さんが話があるんだって」
「結構です」
「坂口君、君は今膨大な債務を抱えているんだよ。債権者が話があるんだから電話に出ないと怖いお兄さんがここに来るよ」
「来ないと思います」
「坂口君、精神的な意味で言ってんのよ。わかるでしょ? それに君に今不足しているものとかあるんじゃないの? そういうの送ってくれって言わなきゃさ、さすがにここでは暮らしていけないと思うよ。。そうなると坂口君死んじゃうよ」
「代わります」
 くそババァの声なんか聞きたくなかったが、確かに今の僕には物質的に足らないものがある。
 僕のくそババァは、いや僕の母は、僕の小学生時代の話を持ち出して僕を泣き落そうとした、が、その手は僕に通じない。というか僕は母が話した思い出みたいなものを覚えていなかった。
 母の話はこうだ。僕が小学三年生のとき(すでにそんな時代の記憶は僕にはない)の運動会。50メートル走で僕は当たり前のように(何度でも繰り返す。僕はとにかく体育だけは得意だったのだ)一着となった。
 
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