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波の音が聞こえる場所で
第9章 安奈という女について
 先に言っておく。これは昭和を知らない僕の感想であり物語である。まちがいなくそれは甲斐バンドのみなさん、この歌を作られた甲斐よしひろさん、甲斐バンドの関係者の方々、そして甲斐バンドを応援しているみなさんに不快な思いをさせるこになる。だから僕は今謝ります。
「申し訳ございません」
  
 僕もいっちゃんも今一つ昭和という時代が飲み込めない。例えて言うなら目の前に突如として現れた瓶のコーラ。缶でもペットボトルでもない瓶コーラ。慣れてないんです僕といっっちゃにはそういうもの。
 それに目の前のSONYのラジカセ。音楽って普通スマホで聴くんじゃないですか? (後々知ることになるのだが、音楽を家の中だけでなく外に持ち出して聴くことができるようになったのはラジカセやSONYのウォークマンのお陰であると言うことを)
 僕もいっちゃんも固まったまま(僕といっちゃん思案中)。
「聴いてみますか?」
 やはり、いっちゃんは勇者だ。
「そうだよね」
「でも先輩、もしイメージが違ったらどうします?」
 いっちゃんが言うイメージ、よくわかります。だってそうじゃないですか、半世紀近く前に作られたクリスマスソングですよ。
「いっちゃん、『安奈』は裏切らないと思うよ」
「先輩、その根拠は?」
「そんなのないよ。でもね、『安奈』は絶対に僕たちの期待応えるよ。信じようよ、甲斐バンドを」
「ですよね。今はそれしかないですもんね」
「……」
 今はそれしかない。そうなんです、僕といっちゃんは甲斐バンドさんに頼るしかないんです!それのどこが悪いんですか!(ついつい感情的になりました)
 封を切っていないカセットテープを取り出してそれを視聴することも考えたが、令和はそんな面倒なことをしなくてもいい時代だ。いつでもどこにいても、大昔に作られた曲を聴くことができる。
 いっちゃん、YouTubeで「甲斐バンド 安奈」で検索開始。一瞬で検索終了。
「じゃあ、先輩行きますね」
「ちょっと待った!」
 思わず出てしまった「ちょっと待った」。
「……」
 いっちゃん、無言で僕を見つめる。
「いっちゃん」
「はい」
「安奈に手を合わせようか?」
「手を合わせる? って?」
「僕といっちゃん、そして白組の運命は甲斐バンドの安奈にかかっているんだ。白組のためにさ、そして僕といっちゃんのクリスマスのためにさ」
「了解です」
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