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正義と道徳のアクメ
第4章 少女の分泌液の甘さは望まぬ挿入の苦しみをいくぶん慰めた!
 啓子は激痛に脈打つ鼻を押さえ、吹き出す涙に洗われた視界であらためて少女を見上げた。眉はなく、一重まぶたと直線的に整った鼻と小さく肉厚な唇が真珠のようにきめ細かい肌の上に規律正しく配置されている。そんな飛び抜けた美貌が、この港町の実力者の愛人であるという真実味に何よりの説得力を持たせていた。
「お前…ただじゃ済まんからな!覚悟せぇよ…オラァっ!」
「うぅっ…!あっ!ぐうぅっ!」
 知性乏しく同じ内容の脅し文句を繰り返しながら、若き娼婦は啓子の胸や腹を蹴り続けた。口よりも活き活きと手足が出るその狂人っぷりに、いっそう恐怖を深めた啓子は悲鳴を漏らすのがせいぜいだった。
 狡猾で上昇志向の強い北島カレンとは違い、この狂女の行動には明確な目的が見えない。生まれて初めて受ける単純な暴力に「死」がチラつく。
『ところで、死ぬのしばらくやめてみません?』
 口の中が鉄錆の味で満たされる中、啓子の耳の中にいつか学に言ったセリフが再生された。
「呼べっ!」
「えっ?」
「ケントとキースを呼べ!早くしろっ!」
「は、はい…」
 手下の熟女たちに命じる少女の声が、耳鳴り混じりに鼓膜へ響く。同時に暴力が止んだせいか、啓子はその怒声にかすかな甘さを感じた。
「この女、躾けて中野さんに上納するからそのつもりでいろ!」
「わ、分かりました…」
(じょ、上納だなんて…また…)
 聞くだけで胃の裏返る言葉に絶望する間もなく、
「立て」
バタフライナイフの切っ先が冷たく頬に当てられる。
 そのまま身体の前面をメッタ刺しにされて失血死に至る───という、いつか学から聞かされた頭の弱い連中の起こした事件の陰惨な結末が思い出され、啓子は喉を詰まらせた。
「カオさぁーん!」
 すると、海側の路地の角から顔を出した少女と同世代と見られる少年ふたりがダルそうに手を振りながらこちらへ向かって来た。
 ひとりは金髪ショートボブの小柄で色白な少年で、黒い開襟シャツに黒いパンツ姿と地味な出で立ちながら胸元からは菊の花と富士山の和彫りが覗き、やけに屈託のない笑顔に狂気じみた自己中心性を滲ませていた。
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