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正義と道徳のアクメ
第6章 言え!あの男のモノよりもこっちの方がイイと言えっ!
 女になったばかりで、日々その悦びに拍車がかかり続けている啓子からすると耐え難い日々だったのだろうが、今や我々は公開手配を受けている逃亡犯なのだ。人目の多い場所に長く留まることは避けたかった。
(誰か死んだのか?高島課長か…港町のヤクザか…もしくは北島カレンか…)
 鬱々と憂慮する学のジッパーがジジジ…とくぐもった音を立てて開かれる。赤く膨らんだ小鼻から生暖かい息を吐き、その隙間へ指を挿し込もうとしている啓子に、
「やめろっ!」
学は大声を上げてしまう。
 啓子はビクン…と身体を強張らせ、
「あぁっ…!んぅっ…あぁ~っ…」
他の客がいるにも関わらず甘ったるく嬌声を漏らし、爪先で悩ましげにクロッチを引っ掻きはじめた。
 高島美鈴と接触してからというもの、啓子はタガが外れたようにどんどん本能にうずもれてゆくようだった。
「こんな場所で勘弁してくれよ…」
 学がなだめるものの、啓子は一向に自慰行為を止める気配がなかった。
 すると、背を向けてカウンターに座っていたオレンジ色の柄シャツの小柄な中年男がこちらを振り向き、アルカイックスマイルを浮かべて学たちの席まで歩いてきた。
「お嬢さん、ここは公共の場所ですよ。落ち着いて。ねっ?」
 前髪を切り揃えたボブヘアにつぶらな一重まぶたに大きな鼻という、いかにも温和そうな男の見てくれが妙に学の癇に障った。笑顔と一体化した真っ赤なフレームの眼鏡の奥がまるで笑っていなかったからだ。
「あっ、ごめんなさい…旅の疲れが出てしまって…」
 啓子はすぐにスカートを直して桃色に染めた額を男へ向けた。
「ココアでも飲みますか?奢りますよ。甘いものは落ち着くからね」
「はい、いただきます」
 幼い笑顔で応える啓子に対し、学は穿った視線で男を観察し続けた。
 年の頃は四十代半ばといった所だが、中年男性特有の疲労感も卑屈さは微塵もなく、眼差しの強さにおいては学よりも若い印象を受けた。
 幼少期から『前進の村』の道場で年齢不詳の大人たちを腐るほど見てきたが、初めて見るタイプの大人だった。
 そんな学の目に、
(うぅっ…!)
これまで死角になっていたカウンターの壁に貼られた自分たちの公開手配のポスターが飛び込んでくる。しかも、子供の頃から見慣れている殺人犯や爆弾魔のものと並んで。
 男は店のマスターから受け取ったココアをテーブルに置くと、突然切り出した。
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