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正義と道徳のアクメ
第7章 これだけ顔を寄せ合って唇が触れなかったことがあっただろうか!
「くうぅっ…イクぞっ!イクぞぉ絵津子っ…久しぶりにイクぞぉぉぉっ…!」
「あぁぁ…航さんっ…私もイっクぅぅぅっ…来てっ!中にいっぱいぶちまけてぇぇ~っ!」
 こうして学と啓子は久しぶりに他者の肉体を介してではあるが同じ瞬間に絶頂を果たし、
(行くぞっ)
(うんっ!)
浴衣をひっかけたまま以心伝心で部屋を飛び出した。


「はぁっ…はぁ…はぁぁっ…」
「くっ…ふぅぅっ…はぁっ…!」
 血を絞るような五月の怒声を背にふたりは建物の外へ出ると、今までの猥雑なパーティが嘘のような静寂の中を必死で走った。満天の星空は音もなく咲き乱れ、砂利敷きの道を一歩一歩駆けるたびに自分たちの足音がやかましく耳をつく。
 昨日の夕方、『龍の間』で啓子を抱いていればこうはならなかったのか?いや、そもそも港町でチンピラどもに犯された啓子に嫉妬心を滾らせたことも、期せず高島美鈴と交わってしまったことも、その美鈴を排除した啓子に不信感を超えた底知れぬ愛着を抱いたことも、啓子のわがままを少しだけ鬱陶しく感じてしまったことも、全て正直にぶちまければ良かったんだ。
 どこかで立ち止まったら全部言おう。あんな、他人を介したセックスで分かり合えたような気になってはいけない。そう思いながら学は行きがけに代表の車に連れられてきた道を思い出しながら、啓子の手を引いて山道をどんどんと下った。
 草木が生い茂る獣道のような小道に入る。この道が正しい道なのか不安になったがそんなことには構っておられず、あちこちにかすり傷を作りながらひたすら走った。
 すると、
「あ…」
深い渓谷に渡された長い橋のたもとへ出た。
 橋から下を眺めるとひたすらに闇が詰まっており、その底から轟く水音があの『龍の間』で聞こえてたものと繋がっていると思うと今この場所にいる現実味を失った。底に向けて小さく声を出してみるが、どこへも響かずあっと言う間に重力に飲み込まれた。
 疲労で脚が全く動かなった学は、追ってくる気配が無いことに甘えてしばし息を整えた。
「ところで、死ぬのしばらくやめてみません?」
「えっ?」
「なーんて」
 耳慣れた声とセリフに振り返ると、学のバッグを手に持った啓子が真顔でこちらを見据えていた。夜闇の中ながら、啓子の左頬の傷から鮮血が流れ出しているのが分かった。
「頬の傷…どうしたんだ…?」
「逃げる時、あの女に引っ掻かれた…」
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