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第1章 痴漢されて

それは当然で、オリザはスマートフォンで時刻表を見ながら、この時間なら、乗ろうと思えば乗れそうという時間を選んで勝手に書き込んだだけで、書き込んだからといって乗ろうとはしなかった。乗ったのは、齋藤との約束があったからにすぎない。

オリザは、齋藤と駅のホームで並んで話していても、顔は齋藤の方をほとんど見ていなかった。それは、万が一、知人に見られても、仲が良さそうに見えたと言われないための予防線。ホームに立って、線路の方を向いて並んで電車を待っている情景はどこにでもある。並んだ状態で話をしていても、誰も気にもしない。通勤ラッシュの満員電車のなかで、顔を突き合わせて話していても、すぐ横ならともかく、少し離れれば、会話の内容は聞き取れないし、話し辞退しているかどうかもわからない。

それがわかっているからこそ、オリザも齋藤と話をしていたのだが。既婚者の防衛本能というもの。

次回の約束を齋藤としたオリザ。しばらくは、×時××分の▶▶駅の◇◇方面行きの◆両目の前回の扉に乗ることになりました。

次の日は、齋藤はその扉の所に立っていました。オリザも▶▶駅のホームの◆両目の前回の扉の位置で待っていました。構内アナウンスが流れ、ホームに電車が入線しました。齋藤の姿が見えました。扉が開くと齋藤の胸に飛び込むように乗り込みました。

オリザは気が付いていませんでしたが、▶▶駅のホームの◆両目の扉位置に並ぶオリザを見ている視線があったのです。

篠塚、崎浜、園田創志、志穂。

四人とも、オリザのSNSのトップ画は覚えています。篠塚に至っては、昨日の様子も見ています。

篠塚が、

「アレです」

と、自分の身体を壁にして、自分の背中の先に立つオリザを指さして、崎浜、園田創志、志穂に教えた。すぐに三人も頷きました。

「私が至近で確認してきます」

と、電車が入線したタイミングで志穂が走り出した。篠塚も小走りで乗り込み、園田創志と崎浜は隣の扉から乗り込みました。

「あの背の高いのが、例の男だな」

と、確認する創志。

「そうですね」

と、崎浜が答えた。

「厄介だな。大学生の正義感ってヤツは」

と、嗤う創志。

「ですが、大学生ってヤツは、性欲も最盛期の時期ですから」

と、意味ありげに嗤う崎浜。

「そうだが」

と、考え込む創志。