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第1章 痴漢されて

オリザの話を聞いて

「全然、大丈夫じゃ・・・」

と、言いかけて戸惑っていた。

「怖くなかったですか？」

と、齋藤が聞いた。怖かったかどうか？

「それどころじゃなかったわ」

と、オリザは答えた。それが本音。驚いたというのが最初。そして、怖いと思ったのは一瞬。あまりの展開の速さに、

「そうね。あれよあれよと思っている間に、痴漢グループにいいようにされてしまったわ」

と、オリザが苦笑いすると、その動きを察知できず、対応もできなかった齋藤は、

「ごめんなさい。僕があんなに至近にいたのに気が付けなくて」

と、頭を下げた。

「気が付かなくてよかったのよ。気が付いても何もできなかったかもしれないし、男が四人もいたから危険よ。それに、あの女性。あなたが動いたら、それこそ、自分たちのことを棚に上げて、痴漢だとか騒いだかもしれないわ。そうなったらあなたが痴漢にされてしまう」

と、オリザがふと思ったことを口にした。というのも、何かの話で、泥棒が『泥棒だ！』と言って誰かを追いかけると、周囲は追いかけられている人が泥棒だと思い込み、泥棒を追手だと勘違いするという逸話を思い出したからでした。そう、痴漢が逃げる時に、痴漢だと言って他の人を掴まていれば、なかなか捕まえている人が痴漢だとは思わないものです。

もし、齋藤が騒げば、その可能性はあったと今更ながらに怯えるとともに、あの痴漢グループの用意周到さに気が付いたオリザ。あの女性は物理的に齋藤とオリザを遠ざけるだけでなく、多分、そういう意味合いがあっただとオリザは考えた。だから、敢えてあの場所にいたのだということも理解できた。

齋藤もオリザの話を聞いて、その可能性を悟って、

「そうですね。その可能性もありますね」

と、驚き、大きく息を吐いた。

「でも、大丈夫だったのですか？」

と、オリザを心配した。まさか、痴漢グループにいいようにされて、感じちゃったとか、愛液が溢れて零れるほど感じたというわけにもいかないのは自明。オリザは、

「夫とずっとしていないから疼いたわ」

と、だけ言って笑って流そうとしたが、齋藤が、

「ずっとしていないのですか？」

と、そこに反応した。