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第1章 第1章：ラブドール、輝く。

第1章　笑顔の向こう

第二話

その夜は、妙に静かだった。
東京のはずれのワンルーム。
音のない冷蔵庫と、消し忘れた部屋の隅のLEDライトが、
いつもより遠く感じた。

　

洗い物も終えて、シャワーも済ませて、
化粧水をつける手がふと止まった。
鏡の中の自分が、どこか遠い。

　

「……新しい現場、か」

　

口に出しても、現実味がない。
でも、書類は確かに、そこにある。
印刷された名前、事務所名、判子を押す欄。
何もかもが“決定事項”の顔をしていた。

　

「大丈夫です」
そう笑って言った自分が、
いちばん強くて、いちばん弱かった。

　

ベッドに横になると、スマホに通知が届いていた。
SNSに上がったイベントのレポ写真。
タグにはファンの投稿が並んでいた。

　

『ゆりかちゃん、今日も天使でした！』
『頑張ってる姿に元気をもらってます。ありがとう！』
『会えると心があたたかくなる。あなたは、私の希望です』

　

その言葉たちが、胸の奥でじんわりと灯る。
泣きそうになるほど嬉しくて、
でも同時に、苦しくもあった。

　

だって、あの人たちはまだ知らない。
私がどこへ“連れていかれる”のか。

　

「……大丈夫だよ」

　

誰に向けたのかもわからないまま、
声に出してみる。
それは、私自身への“祈り”だったのかもしれない。

　

──私は、希望として生きていく。
誰かの心に光をともせるなら、
私は、きっと大丈夫。

　

翌朝、
優莉花は静かに起きて、
丁寧に朝ごはんを作って食べた。
トースト、ヨーグルト、コーヒー。
いつもの朝。変わらない朝。

　

そして書類に目を通し、
ペンを手に取る。

　

名前を書くだけ。
私はまだ、私を信じてる。

　

一筆一筆、躊躇なくサインを入れていく。
それはまるで“契約”ではなく、誓いのようだった。

　

「応援してくれる人がいる限り、
どんな場所でも、私は希望でいられる」

　

そうして、
“ラブドール優莉花”の新しい現場が、幕を開ける。