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夜来香 〜若叔母と甥、禁忌の果て〜(改訂版)
第25章 クリスマス・イブ 〜慟哭〜

スマホからは母の言葉が聞こえている。
ほとんど耳に入ってこない。

父と母に追い出されたものだと思っていた。
確かめたいことは山ほどあった。
いつか伯父と再会することがあれば聞いてみたいと思っていたこと。
いつか時が流れ、父と母に伯父が出ていったことの真意を確かめてみたいと思っていたこと。

ただ今は、伯父ともう二度と会えないことの衝撃が栞の思考を麻痺させていた。
これから陽翔と映画を観ることさえ忘れるほどに…。


陽翔は少し離れたところから、栞の背中を見つめていた。
肩が震えているように思えて、直感的に近づいていく。

「栞?…」

声をかけた瞬間、震える肩が崩れていく。
陽翔は腰から栞を支えていった。

「どうしたの?…何かあったの?…」

栞の状況がただ事じゃないことを物語っている。

「…ごめんなさい…私、帰らなきゃ……」

支えられ、声をかけられて、ようやく陽翔のことを思い出していた。

「伯父が亡くなったって……」

栞の顔面は蒼白だった。

【あの絵を描いた人が…】

引き留められるわけがない…引き留めようとも思わない。
陽翔は栞の腰をしっかりと支えて、

「送っていくよ…」

それしか言葉が出てこない。
栞とその伯父はただの親戚ではない。
でも、嫉妬とか同情とかそんなことじゃなかった。
陽翔は今は一緒に居るべきじゃないと感じ取っていた。

「ありがとう…でも、タクシーで帰るから……」

デートの途中で帰る、謝罪の言葉も、もう出てこない。
陽翔の腕を押して、踏ん張るように離れていく。
栞は一歩踏み出すと、もう急いでいた。

陽翔もただ栞の背中を見送ることしかできなかった。
何の言葉もかけることができなかった。
栞の姿がフロアから見えなくなっても、しばらくは動くことさえしなかった。

とっくに映画は始まっていた。
一人で観る気にもなれなかった。

「ふぅ……」

陽翔は深い溜め息をついた。
そして、急に怖くなった。

【栞…また会えるんだよね?…】

大切な女性(ひと)が急に居なくなる。
あんな想いは二度としたくないと思っていた。

紙袋に入っていた、プレゼントのキャップを目深にかぶる。

【父さんからのプレゼント…使えるようにしておかなきゃ…】

それを使って栞を描くんだと、自らに言い聞かせるように家への帰路についた。

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