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鬼灯の寵愛
第1章 幾千の時を越えて
「いや、何と言うか…………貴方には私以上に相応しいお似合いの女性が居ると思うんです……」

荊が危惧しているのは、YesかNoかの返事の前に、周囲の視線のほうだった。

「…………まさか、仮に私と恋人になった場合の周囲の反応が気になっているんですか?」
「……はい……」
「お似合いか釣り合うかなど、周囲がひがんで勝手に言う戯れ言ですよ。本人達がOKならそれで良いのです。私は、貴女以外の女性を恋人にしたいと考えた事など微塵もありません。貴女が良いのです、貴女でないと嫌なんです」
「…………私……」

荊の瞳には、まだ迷いが残っている。
鬼灯は、真っ直ぐに荊の瞳を見つめる。

「荊さん……貴女の気持ちを聞かせて下さい」
「あの……でも……」
「貴女の本心を聞きたいのです。教えて下さい」

再度念を押すと、荊はふと俯いた。

「……………………私、は……」

少しの沈黙の後、言葉を紡ぎ始めた。

「貴方が『丁さん』だった頃から、ずっと好きでした」
「荊さん……」
「けれど、私は貴方の恋人に相応しくないです……」
「相応しいかどうかなんて、相応しいに決まっています。私は貴女が良――」
「ダメです、私では……」

鬼灯からふいっと顔を背ける。

「どうして頑なに卑下するんです?」
「貴方は気付いていないでしょうけど、貴方に密かに恋してる女性獄卒は結構いるんです。本当は私もその一人です。でも、私では貴方を不幸にしてしまう気がして……」
「貴女が居てくれるなら、不幸だって甘んじて受けましょう。そんなに卑下しないで下さい」
「だって、『あの時』だって私に関わったばかりに、貴方は――――」
「荊さん!」

突然の大声に、荊の小柄な体はビクッと震えた。
鬼灯が、力強く胸に抱き寄せる。

「っ!」

小さな体は容易く腕に収まってしまった。

「……貴女が私に対して罪の意識を持っているのは知っています。なら、私の恋人となる事でその罪を償って下さい」
「……………………『あの事』、怒ってないんですか……?」
「ええ、私が望んだ結果ですから」
「私……また貴方に迷惑をかけてしまうかもしれないのに……?」
「迷惑だと感じたら、罰としてデートして頂きます。それで結構」
「……っ……」

体の力が抜けそうになり、ふるふると小さく震え始める。

「……鬼灯さん………っ…私で……良いんですか…っ…?」
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