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鬼灯の寵愛
第1章 幾千の時を越えて
… … … …

「……懐かしいですね」

そう言った荊の表情は、心なしか少し寂しげに見えた。

「ヤジロベエ、覚えてますか?」

鬼灯は声を張る事なく、穏やかに話し掛ける。

「私が作ると、少し左に傾いてしまうアレでしょう?」
「ええ、アレを貰う夢を見ていたんです」
「ふふ……何回も作り直して、やっと上手にできたと思ったら、貴方に左に傾いてるのを見破られてしまって」
「気付かない振りをしていれば良かったですか?」

ふるふる、と首を横に振る。

「いえ、言って頂いて良かったです。それで……」

荊は、話を本題に戻す。

「私が姫だった頃と、この状況にはどういう関係が?」

荊は、まだ鬼灯に壁に押し付けられたままだ。
自分の過去がどのように関係してこんな状況になったのか、分からない。
鬼灯は溜息をついた。

「はぁ……こんなに重ね重ね言っているのに、お分かり頂けませんか?」
「単刀直入に言ってくれないと、私は貴方を公然わいせつで訴えますよ? 目撃者も居るんですから」
「それは御免です。では、申し上げましょう」

鬼灯は、そっと荊の頬に触れた。

「っ……?」

荊は少しだけ身動ぎしたが、黙って鬼灯を見詰め返す。
目線が、重なる。

「私は……ずっと貴女が好きでした」
「…………え?」
「貴女が姫だった頃から、ずっと好きでした」
「…………」
「先程の過激発言も本気で言っています。ふざけてなんかいません」
「…………」
「荊さん、私の恋人になって下さいませんか?」
「…………」
「…………荊さん……お返事を聞かせて下さい」
「……………………」

完全にフリーズしていた。瞬きすらせず、見詰め返したまま微動だにしない。

「……荊さん、もう一度最初から言って差し上げまs」
「本気ですか?」

確認の意味で、荊は問い掛けた。

「本気で、私を恋人にしたいと?」
「ええ、本気です。ふざけているように見えますか?」
「そういうわけでは……でも、なんだか……」

荊は、釈然としない様子で首を傾げる。

「何ですか?」
「……私は、貴方に相応しい女でしょうか?」
「はい?」
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