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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第8章 第二話・参
「マ、ようござんしょう。それにしても、まさか、あたしも自分が女衒紛いのことをするとは思いもしませんでしたよ。ですが、旦那、厄介事だけはご免ですよ。その女をどこから攫ってきたのかは存じませんけど、聞けば、亭主持ちのようじゃないですか。それだけの器量と色香持ってる女は滅多といませんから、旦那がご執着なさるお気持ちも判らないじゃありませんが、危ない橋の片棒を担ぐのは厭ですからね」
「―と、いうことだ。良い加減に諦めて、大人しくしろ」
 嘉門に荷物のように肩に担ぎ上げられ、お民の悲鳴が響き渡った。
「いやっ、お願いです、助けて、私を助けて」
 お民が泣きながら手を差しのべる。
「お生憎さま、あたしャ、金のために身体を売る女ってのを厭になるほど見てきてね。かく言うあたしも元を正せば岡場所の女郎上がり。金のために実の親に売られて、まだ月のものもなく股の開き方もろくすっぽ知らない十三の歳から客を取ってきたんだよ。男に無理やりやられちまう女なんて、それこそ見慣れてるからね。それに、あんたが幾ら泣こうが叫ぼうが、あたしは出合茶屋の女将、客から貰えるものを貰えば、後は知ったことじゃないのさ」
「―そんな」
 お民の口から悲痛な呻きが洩れた。
「酒は良いから、朝まではもう近づかないでくれ」
 嘉門がぞんざいに顎をしゃくると、女将は淫らにも見える艶っぽい笑みを浮かべた。
「それはそれは、では、どうか朝までごゆっくりお愉しみ下さいませ。邪魔者は退散致しましょう」
 女将がまた階段を降りてゆく。脚音が聞こえなくなると、嘉門はお民を担いだまま部屋に入り、襖を閉めた。
 緋色の褥にお民を乱暴に放り投げる。
「全く、どこまで世話を焼かせる女なのだ」
 嘉門の口調にはかなりの苛立ちが混じっていた。
「お願いだから、もう、こんなことは止めて下さい。お願いですから」
 我慢もこれまでだった。ぎりぎりまで追い込まれ、お民の中で緊張という糸がプツンと切れた。
 怖くてたまらない。
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