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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第8章 第二話・参
 嘉門の屋敷で過ごした夜の記憶が次々に甦る。到底口にはできない恥ずかしいようなことも、命じられれば従うしかなかった―。そんな夜を繰り返す中に、いつしか身体は嘉門の巧みな愛撫に馴らされ、快感を憶えるようにさえなっていったのだ。
 また、あんな辛い恥ずかしい想いをしなければならないのかと考えただけで、胸が張り裂けそうになる。
「私、厭なの。だから、だから、もう、こんなこと」
 お民が恐怖に戦慄きながら、呟く。
 嘉門の手が伸びてきた。
 お民は恐慌状態に陥り、無意識の中に両手を振り回して抵抗した。
「いやーっ」
 嘉門が舌打ちを聞かせた。突き出した右の手首が掴まれる。続いて、お民は褥に引きずり倒された。背中を強く打ち、一瞬、息が止まりそうになる。
「馬鹿な女だ。大人しう俺の意に従うておけば、みすみす痛い想いなどせずに済んだものを。まあ、良い。じゃじゃ馬馴らしを久しぶりにとくと愉しむとするか」
 その時、お民の耳奥で懐かしい声音がこだました。
―俺は待つよ。お前が昔のように俺を受け容れられるようになるまで、いつまででも待つ。
 深い心を包み込むような声音は源治のものだ。半月前、源治をどうしても受け容れることができなかったお民に、源治がくれた言葉である。
―お前さん、私、また、この男に捕まってしまった。折角、お前さんとまた元のように暮らせると思ってたのに。
 そう思った途端、お民の中でやるせない哀しみと憤りがふつふつと湧き上がった。
 何故、この男は自分の、いや、自分と源治のささやかな幸せをたたき壊そうとするのか。市井の片隅で肩を寄せ合って生きていこうとする自分たちを追いつめようとするのだろう。
 許せない!!
 お民は咄嗟に頭から簪を抜いた。
 梅の花を象った簪は、けして高価な物ではないけれど、今年の正月に源治が買ってくれたものだ。随明寺に初詣に出かけた後、二人並んで町を歩いた。その時、源治が所帯を持ってから初めて、身につけるものを買ってくれたのだ。
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