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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第1章 壱
「実に面白き女子だな。俺を相手に臆しもせずに、ああも堂々と物を言うとは珍しい。この面構えのせいで、大概の女は俺を怖がり、見つめれば怯えて眼を逸らす。だが、あの女は負けずに俺の方を睨み返してきおった。マ、いささか無礼なのは確かに癪に障るが、あの受け応えは打てば響くがごとくで悪くはない。俺は上辺が美しいだけの愚かな女よりは、利発な方が好みだからな」
「見場より心映えにございますか? とは申せ、あの女、なかなかの別嬪にはございますよ」
 三門屋が調子を合わせると、男が口許を歪める。
「それに良い身体をしておる」
 卑猥な笑みを浮かべる男をチラリと上目遣いに見上げ、三門屋は機嫌を取るように言った。
「石澤さまは、あのような女子がお好みだとかねてよりお伺いしておりましたものでございますから」
 また短い沈黙があり、男が低い声で言う。
「惜しいことをしたものだな」
 あろうことか、この男こそ、かつて三門屋がお民に妾奉公に上がらないかと訊ねた旗本石澤嘉門主衞(かずえ)その人だったのである!
 嘉門の静まり返った面には、さざ波ほどの変化もない。
 三門屋はその顔色を窺うように見返しながら続けた。
「お気に入られましたか」
 また、沈黙。
 ややあって、嘉門が頷いた。
「―気に入った」
 二年前、お民に妾奉公に上がってみないかと言った時、三門屋は嘉門にもお民の存在をそれとはなしに話していた。
 長らく忘れていたその女の存在を、どうやら嘉門は俄に思い出したらしい。
「三門屋、あの女子、何とかして手に入らぬものかの」
 嘉門の好き者そうな眼がかすかに細められ、三門屋を見つめる。
「はあ、と仰せになられましても、実はあの女は既に一年前に所帯を持ち新しい良人がおりまして」
 口ごもる三門屋に、嘉門は底光りのする眼を酷薄そうに光らせた。
「礼金は弾もう。その方の望みのままに」
 嘉門は懐に手を突っ込むと、無造作に巾着を取り出し、それを三門屋の前に放った。
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