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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第1章 壱
 嘉門の家は直参旗本で五百石、譜代の家柄ではあるが、石高もそれほど多いわけではない。
 しかし、嘉門の母祥月院が時の老中松平越中守親嘉(ちかよし)の実妹ということもあってか、羽振りはたいそう良い。何でも老中に届けられる諸大名家からの賄賂の一部がこの甥の懐に多額の小遣として流れ込んでいる―という噂もあるのだ。
「はっ、ありがとうございます。この三門屋信吾、しかと石澤さまの御意を承りましてございます。石澤さまのお望みの品、必ずやお手に入るように尽力させて頂きましょう」
 三門屋は眼の前に投げてよこされた錦の巾着を急いで拾い、さもありがたげに押し頂き懐に収めた。
 その一部始終を嘉門が冷めた眼で見つめる。
「それで、その方はいかがするつもりなのだ? たとえ相手は町人とはいえども、既に亭主のおる女だぞ? そうそう無体もできまい」
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