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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第8章 第二話・参
「その潔さに免じて、最後に一つだけ、願いをきいてやろう。言い残したいことでも良いぞ」
口調とは裏腹に少しの情けも優しさも、憐憫のかけらさえも窺わせぬ冷えた表情で、嘉門がゆっくりと言う。
よもや、この時、嘉門がお民を本気で殺すつもりがないことも、流石に勝ち気なお民でもこの期に及んでは泣き叫んで縋ってくるに違いないと踏んでいたことも―、当のお民は予想もしていなかった。
「そのようなもの、一切ございませぬ。あなたさまから辱めを受けておめおめと生き存えるよりは、生命を絶って頂くのが何よりの情けと申すもの」
お民もまた醒めた声で返す。
「何だと?」
「辱めよりは死を与えられる方がマシだと申し上げたのです。―それがどうか?」
嘉門の漆黒の瞳の奥底に、お民を憎んでいるかのような暗い光がまたたいた。
「おのれ、そなたはそこまで申すか。この俺に抱かれるのが辱めだと、俺に抱かれるよりは死んだ方がマシだと」
ふいの静けさが二人の間に落ちた。
その時、嘉門の中の怒りも憎悪も決定的なものになったことを、お民は迂闊にも知り得なかった。
「そうか、であれば、俺はそなたを殺すまい。そなたが死よりも厭うという方法で、そなたに仕置きをしてやろう」
「―私に何をするつもりなの?」
お民は悲鳴のような声を上げた。
死など恐れはしない。たとえ源治に二度と逢えなくなるとしても、この卑劣な男にまた慰みものにされるよりはよほど良い。
他の男に抱かれて、再び源治を裏切るようなことになるよりは、よほど良い。
そう思って、死でさえ従容として受け容れるつもりだったのに。
お民は再び近づいてくる嘉門を、まるで幽霊でも見るかのような恐怖に強ばった顔で見つめた。
口調とは裏腹に少しの情けも優しさも、憐憫のかけらさえも窺わせぬ冷えた表情で、嘉門がゆっくりと言う。
よもや、この時、嘉門がお民を本気で殺すつもりがないことも、流石に勝ち気なお民でもこの期に及んでは泣き叫んで縋ってくるに違いないと踏んでいたことも―、当のお民は予想もしていなかった。
「そのようなもの、一切ございませぬ。あなたさまから辱めを受けておめおめと生き存えるよりは、生命を絶って頂くのが何よりの情けと申すもの」
お民もまた醒めた声で返す。
「何だと?」
「辱めよりは死を与えられる方がマシだと申し上げたのです。―それがどうか?」
嘉門の漆黒の瞳の奥底に、お民を憎んでいるかのような暗い光がまたたいた。
「おのれ、そなたはそこまで申すか。この俺に抱かれるのが辱めだと、俺に抱かれるよりは死んだ方がマシだと」
ふいの静けさが二人の間に落ちた。
その時、嘉門の中の怒りも憎悪も決定的なものになったことを、お民は迂闊にも知り得なかった。
「そうか、であれば、俺はそなたを殺すまい。そなたが死よりも厭うという方法で、そなたに仕置きをしてやろう」
「―私に何をするつもりなの?」
お民は悲鳴のような声を上げた。
死など恐れはしない。たとえ源治に二度と逢えなくなるとしても、この卑劣な男にまた慰みものにされるよりはよほど良い。
他の男に抱かれて、再び源治を裏切るようなことになるよりは、よほど良い。
そう思って、死でさえ従容として受け容れるつもりだったのに。
お民は再び近づいてくる嘉門を、まるで幽霊でも見るかのような恐怖に強ばった顔で見つめた。