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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第10章 第三話・壱
 おろくという三十過ぎの気の好い女がお民の額に浮いた汗を手ぬぐいで拭いながら、励ましてくれた。
 そうこうしている中に、再び痛みが襲ってきて、お民はまた産みの苦しみを味わうことになった。が、今度は最初のときほど長くは続かず、二人目の子はさして刻を経ずに産声を上げた。
 生まれた子が双子であったのは天の配剤であったと、お民自身も思ったものだった。嘉門との間に子を授かったのは、これが初めてではない。側室として石澤家の屋敷にいた頃、お民はあの男の子を宿している。しかし、あのときは自分の身体を欲しいままにした男の子だと考えただけで厭わしくて、生まれてくる子を疎ましいとさえ思った。
 が、その子が流れた時、お民は初めて自分がいかほど酷い母親であったかを知った。折角この世に生まれ出ようとした生命を祝福しようともせず、抹殺さえしようとした。―お民は身籠もったと知った直後、自ら生命を絶とうと、腹の子ごと自分も死のうとしたのだ。
 実の母に愛されることもなく、闇から闇へと消えていった儚い生命を思う時、お民は果てのない悔恨に駆られた。何故、もう少し、あの子を愛してやれなかったのだろう。失った後で、いかほど後悔してみても、失われた生命は二度と戻らない。
 そんな中で身籠もった新たな生命であった。たとえ嘉門にまたしても陵辱されて宿した生命でも、お民は初めから生む決意であった。今回、生まれたきたのは、先に亡くした子の代わりであり、もしかしたら、最初の良人との間の倅兵太の生まれ変わりでもあるのではないかと思う。
 初めて二人の我が子と対面した時、御仏が亡くした子らの代わりを授けて下されたのだと思い、生まれたばかりの赤児のやわらかな頬に自分の頬を押し当て涙ぐんだのを今でもよく憶えている。
 江戸に戻ってきてから、お民は一膳飯屋〝花ふく〟に再び勤め始めた。〝花ふく〟はお民が以前、奉公していた飯屋である。主人の岩次も内儀のおしまも至って気立ての良い老夫婦で、子どものない二人はお民を実の娘のように大事にしてくれた。
 思いがけず嘉門の子を再び宿してしまい、お民は岩次にもおしまにも何も告げず、江戸を去った。今更のこのこと訪ねていっても追い返されるに違いないと覚悟していたのに、二人は笑顔で温かく迎え入れてくれたばかりか、お民にその気があるなら明日からでも来て欲しいと言った。
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