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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第10章 第三話・壱
 見た目は双子で、お民か源治でないと―赤の他人ではまず判らない―区別がつかないほど酷似している兄弟だが、その気性は天と地ほども違う。長男の龍之助は利かん気で、一度でもこうと決めたら梃子でも動かないといった頑固なところがある。
 対して次男の松之助は大人しく、やんちゃな兄を傍で大人しく眺めている。
 源治などは、
―龍(たつ)の利かん気なところは、存外、俺に似てるのかもしれねぇな。
 眼を細めて言う。
 実のところ、龍之助にも松之助にも、源治の血は一滴も流れておらず、血筋だけからいえば、二人の息子は源治とは全くの他人であった。
 源治はこの二人の倅を眼に入れても痛くないほど溺愛している。大真面目な顔で〝龍は俺に似ている〟なぞと言うと、お民の方がつい涙ぐんでしまいそうになるのだった。
 源治への感謝と申し訳ないという想いで心は千々に乱れそうになる。でも、黙って姿を消したお民を追って、はるばる江戸から螢ヶ池村まで来てくれた源治が
―この子は俺の子だ。お前は、俺の子を生むんだ。
 そう言ってくれたときのあの言葉をひたすら信じ、二人の子どもたちは源治と自分の子なのだと思って育ててきた。
 源治の言うとおり、確かに龍之助と源治は性格的によく似ているかもしれない。源治は上辺は寡黙で大人しい男だが、芯は強く、なかなかに一徹なところがある。
 全く血の繋がらぬ二人がよく似ていると思えば複雑な想いにもなるけれど、龍之助が良人に似ているのは、お民にとって嬉しいことではある。
 お民がそんなことを考えながら、まだ黒い瞳に大粒の涙を宿している我が子を抱き上げたときのことだ。
 道の向こうから、一人の老人がゆっくりとした脚取りで歩いてくるのが見えた。
 お店の旦那衆が花ふくを訪ねてくることはままあるが、流石にお侍ともなれば、客の中にはいない。が、ここは町人町の目抜き通りでも端に位置しており、数軒先で大通りも終わる。後は八百屋、小さな筆屋や仏具屋などばかりで、あのようなお武家が用のある店はないだろう。
 かと言って、花ふくだって、同様には違いないのだけれど。
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