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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第10章 第三話・壱
「お方さまはお心映えも優れ、ご聡明であらせられると、この水戸部は殿よりよくお聞きしておりまする。そのようなお方であらせられれば、必ずやこたびのお願いもご承知して頂けると」
「―」
お民は息を呑んだ。
石澤家の用人の突然の来訪、そして、お民が嘉門の子の母であることを殊更指摘してくるその理由は一つしか考えられない。
「どうか曲げてご承服して頂きたい。お方さまがお生みあそばされた御子、龍之助君を当家にお返し頂きたいのです」
やはり、そうだったのだ。
嘉門はまたしても、お民の大切なものを奪おうとしている。お民を攫い、手籠めにした挙げ句、身籠もらせた。三年も放っておいて、いきなり突然現れて、子を返して欲しいだなぞと、よくも言えたものだ。
何を今更という想いがお民の中を突き抜けた。
「一体、何のことを仰せになられているのかは、私には判りかねます。私どもには確かに二人の倅がおりますが、この子は私と亭主との間に授かった子にございます。それをやんごとなきお殿さまの御子などと仰せられましても、ただ困惑するばかりでございますが」
お民があくまでもシラを切ると、水戸部は細い眼をわずかに眇めた。
「―」
お民は息を呑んだ。
石澤家の用人の突然の来訪、そして、お民が嘉門の子の母であることを殊更指摘してくるその理由は一つしか考えられない。
「どうか曲げてご承服して頂きたい。お方さまがお生みあそばされた御子、龍之助君を当家にお返し頂きたいのです」
やはり、そうだったのだ。
嘉門はまたしても、お民の大切なものを奪おうとしている。お民を攫い、手籠めにした挙げ句、身籠もらせた。三年も放っておいて、いきなり突然現れて、子を返して欲しいだなぞと、よくも言えたものだ。
何を今更という想いがお民の中を突き抜けた。
「一体、何のことを仰せになられているのかは、私には判りかねます。私どもには確かに二人の倅がおりますが、この子は私と亭主との間に授かった子にございます。それをやんごとなきお殿さまの御子などと仰せられましても、ただ困惑するばかりでございますが」
お民があくまでもシラを切ると、水戸部は細い眼をわずかに眇めた。