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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第10章 第三話・壱
 と、いつのまに外に控えていたのか、わらわらと数人の武士が店の内になだれ込んでくる。
「申し訳ござりません。できれば、このような力づくでという方法は取りたくはござりませんでしたが、致し方ない」
 水戸部が合図すると、屈強な男たちの中の二人が店から二階へ続くと階段を駆け上ってゆく。二階には、岩次と龍之助がいるはずだ。
 ほどなく、悲鳴や怒号が二階で響いた。
 悲鳴は、内儀のおしまのものに違いなかった。
 龍之助を腕に抱いた男が階段を降りてくる。もう一人の男がその後に続いた。
「何するんでぇッ」
 岩次が怒鳴りながら、二人の後を追いかけてくる。 
「止めて、あの子を連れていかないで」
 お民は絶叫した。
「お方さま、このような酷いことをする水戸部をどうかお恨み下され。それがし、畏れながら早くにお父君を亡くされた殿を我が子ともお思い申し上げて今日までお仕えして参り申した。殿のおんため、お家のおんためであれば、この身はいかようなる憎しみも受ける覚悟にござります」
 水戸部が頭を下げ、踵を返した。
 逞しい男に抱えられた龍之助は、火が付いたように泣き喚いていた。無理もない。いきなり出現した侍に有無を言わさず抱きかかえられ、連れ去られようとしているのだ。
「待って、お願い。龍之助を返して」
 お民が追い縋ろうとするのを、別の侍が両手を広げて押しとどめる。その間に、龍之助を抱えた男は素早く外に出た。
「おい、待ちな。どんな事情があるのかは知らねえが、公方さまにお仕えする天下の直参が人攫いのようなことをしでかして、その名が泣くとは思わねえのかい」
 岩次がお民の前に立ちはだかる男の傍をすり抜け、外に躍り出た。
 叫びながら龍之助を抱えた男に食らいついてゆこうとすると、更に別の侍が岩次を後ろから蹴り上げた。
 岩次の小さな身体が数歩先に投げ出される。
「旦那さんッ」
 お民は悲鳴を上げて、岩次に駆け寄った。地面に倒れ伏したまま、岩次は微動だにしない。
 その隙に、男たちは風のように駆けていってしまった。
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