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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第11章 第三話・弐
 源治がお民を見て、吐息をついた。
「俺ァ、龍がいなくなっちまって、まるで自分の身体の一部がどこかに持ってかれちまったように思えてならねえんだ。だけど、よくよく考えてみりゃア、辛えのは俺だけじゃねえ。お前は、龍を腹を痛めて生んだ母親だ。俺なんかよりもっと辛い想いをしてるんだから、もっと労ってやらなきゃならねえのに、俺は自分の気持ちばかりに引きずられて、お前のこと考えてやらなかった」
「良いんですよ、そんなこと。お前さんの気持ちは本当にありがたいと思ってます。これ以上、望んだら、罰(ばち)が当たりますよ」
 それは、心からの言葉だ。実の子ではない子を我が子としてその腕に抱き、慈しみ育てる―、なかなか誰にでもできるものではない。
「止せやい。また水臭え他人行儀なことを言いやがって。手前のガキのことをてて親が心配するのは当たり前じゃねえか。何も改まって礼を言われるほどのことじゃねえや」
 お民は微笑んで頷いた。
 その時、表の腰高障子が荒々しく叩かれた。
 源治が弾かれたように顔を上げる。
「夜分に申し訳ござらぬ。それがしは石澤家用人、水戸部邦親にござる。お方さまに火急のご用があり、こうしてまかり越した次第」
 その切迫した声に、お民と源治は顔を見合わせた。

 それから四半刻後、お民は石澤家から寄越された駕籠の中の人となっていた。真夜中に水戸部が徳平店を訪れた理由は、あろうことか、〝若君さまご危篤〟というものだった。
 お民はむろん、源治も共に行きたいと申し出たのだが、それは却下された。水戸部は源治に向かって頭を下げた。
―お方さまの身柄は必ずやご無事にその方にお返し致そう。この水戸部の生命に代えても、この約定は守るゆえ、今は辛抱してくれ。
 源治が石澤の屋敷に行きたいと言った気持ちを、水戸部は正確に理解していた。我が子として育てた龍之助の身を案ずると共に、また女房の身をも心配していたのだ。
 お民への嘉門の執着は並外れている。それは一度は暇を出しながらも、しつこくつけ回し、ついには軟禁して手籠めにしてしまったという事実でも明白だ。
 お民が石澤の屋敷にゆけば、また嘉門に引き止められるのではないか―、源治がそう思うのも無理はなかった。
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