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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第11章 第三話・弐
 水戸部に白髪頭を深々と下げられては、源治も得心せぬわけにはゆかない。結局、お民だけが迎えに遣わされた駕籠に乗り、雨の中、石澤邸に向かった。
 お民が案内されたのは、屋敷の奥まった一室であった。奥向きと称される当主の正室や、その子女が住まう私邸部分に当たる。対する表は当主が政を行う公邸部分に匹敵し、これが公方さまの住まう江戸城では表御殿と奥御殿―即ち大奥であった。むろん、旗本の石澤家でもこの奥向きには、当主の嘉門以外の男子は脚を踏み入れることはできない。
 とはいえ、お民が以前、この屋敷にいた頃は離れで起居していたため、〝本邸〟と称されていた屋敷の仕組みは殆ど知らなかった。
 龍之助が寝かされていた座敷も初めて見る部屋であった。八畳ほどの部屋に豪奢な布団がのべてあり、そこに小さな身体が横たわっていた。
「龍之助ッ」
 お民は蒼白い顔の我が子を見て、悲鳴のような声を上げた。
 龍之助の枕辺に座していた女性がちらりと振り返る。その顔は忘れようとしても忘れられない、祥月院その人であった。紫の打掛に切り下げ髪の武家のご後室姿は相変わらず若々しく美しいが、その白い面は凍てついた氷のようであった。
 お民は急のこととて、着の身着のままで長屋を出てきた。ゆえに、粗末な木綿の一重を身につけている。町家暮らしの女―しかも、いかにも、その日暮らしの裏店住まいの女といった装いのお民を見て、露骨に眉をひそめた。
 お民は龍之助の枕許ににじり寄った。
「龍之助、龍之助ッ」
 半狂乱になって叫ぶお民を、祥月院は冷たい眼で見つめる。
「相変わらず、騒がしき女子よの。そのように気違いのように騒いでは、治る病も治るまい。静かに致さぬか」
 吐き捨てるように言い、立ち上がった。
 もう後を見ることもなく、打掛の裾を翻して去ってゆく。襖が外側から開き、祥月院の姿はその向こうに消えた。
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