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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第11章 第三話・弐
 祥月院が狼狽えているのは孫の死によるものか、それとも、お民が龍之助の亡骸を抱いていることへの腹立ちによるものか判ったものではない。―と、お民は皮肉な想いで考えた。
「母上、少しお静かになさっては頂けませぬか。龍之助はやっと苦しみから解放されたのです。せめて今は静かに眠らせてやりましょう」
「さりながら、殿はこの女をいつまでここに置いておかれるおつもりにございますか? この機に乗じてまた、この女をお側にお召しになるおつもりにはございませんでしょうな」
 祥月院が柳眉を逆立てるのを、嘉門は憐れむような、蔑むような眼で見つめた。
「母上、このようなときにお言葉をお慎み下され」
 嘉門はそう言うと、医者の傍に控えていた水戸部に命じた。
「邦親、お民を徳平店まで送り届けてやってくれ」
 その言葉には、水戸部が顔色を変えた。
「さりながら、殿。今少し、お方さまと若君さま、最後のひとときをお過ごしあそばされるようになされてはいかがにございましょう」
 流石に今、この場で母子を引き離すことの酷さを訴えようとしたのだろう。言い募る水戸部に、嘉門は断じた。
「その必要はない」
 この時、嘉門がお民の身柄を徳平店に帰そうとしたのは、他ならぬ母祥月院の手前があったからだ。これ以上お民をここに置いていては、祥月院が何を言い出すか知れたものではない。それでなくとも愛盛りの我が子の死に打ちひしがれているお民に、祥月院の心ない言葉のつぶてを浴びさせるに忍びなかったのだ。
 しかし、そのときのお民に嘉門の心が判るはずもなかった。
「―お恨み致します」
 お民は低い声で呟いた。
 嘉門を、祥月院を、真っすぐに見据えた。
「な、何じゃ。この女子は」
 祥月院がさも怖そうに首をすくめ、魔物でも見るかのような眼でお民を見た。
「あなた方が寄ってたかって龍之助を殺したのです。二歳にもならぬ小さな子を夜、外に連れ出した祥月院さま、あなたさまも母親であれば、それがこのような結果を招くことになるやもしれぬと何故、お考え下さりませんでした」
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