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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第11章 第三話・弐
「そ、そなたは、わらわが悪いと申すのか。このわらわが龍之助君を殺したと」
 祥月院が怒りと愕きのあまり、わなわなと震えていた。
 三年前、石澤家に嘉門の側室としていた頃のお民は、いつもうつむいていた。祥月院が何を言おうと、ただひたすら黙って泣いて耐えていたのだ。
 それが、まるで人が変わったように反撃してくる。
「殿、ご覧なされましたか。これが、この女の怖ろしき本性にございますぞ。龍之助君だとて、真、殿のお血を引いた御子がどうか、知れたものではございませぬ。このような下賤なる女子であれば、幾人の男と拘わりを持っているやもしれませぬでのう。この屋敷におる時分は楚々とした風情を装っておりましたが、これで、この女の正体が判ったというもの。殊勝なるふりもすべて、殿のお気を引くための手練手管にござりましょう」
「母上、良い加減にお止めなされませ!」
 嘉門の鋭い声が飛んだ。
 祥月院が鼻白み、押し黙る。
「酷い、あなたさまはそこまで仰せになられますか。龍之助を、あの子をそこまで貶めるのでございますか」
 お民が涙ながらに叫んだ。
「私は何も望んで自らあの子の手を放したわけではありません。あなた方がこの家に世継が必要だからと、勝手に攫っていったのではありませんか。それを今になって、あの子がこの家の子ではないと、そんな酷いことを」
「お民、母上も龍之助の突然の死で気が立っておられるのだ。このとおりだ、許してやって欲しい」
 嘉門が詫びると、祥月院がますますいきり立つ。
「殿がこのような賤しい女に頭をお下げになる必要はございませぬぞ。ええ、そうですとも。龍之助が我が孫などであるはずがない。このような怖ろしき女の生んだ小倅など、我が孫だと思うだに、けがらわしいッ」
「母上! いまだ龍之助の亡骸もここにあると申すに、お止めなされ」
 嘉門が怒りを抑えた声で母をたしなめる。
 しかし、絶望と怒りに我を忘れたお民には、最早、その声も届かなかった。
「返して、龍之助を返してよ! あの子を返して」
 お民が泣きながら叫ぶのを見、嘉門が水戸部にそっと眼顔で合図する。
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