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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第11章 第三話・弐
 心得た水戸部が頷き、お民の肩をそっと背後から押さえた。
「お方さま、参りましょう」
 お民はまだ号泣しながら、それでも水戸部に促されるままに部屋を連れ出された。
 意思のない傀儡(くぐつ)のように廊下を歩いてゆく。
 その背に、祥月院の呆れ果てたような声が追いかけてきた。
「おお、怖い怖い。やはり、町家の身分賤しき女はこれだから怖ろしうございます」
 哀しみの涙に暮れるお民には、その嘲るような声も聞こえなかったのはせめてもの幸いであったかもしれない。
 一歩外に出ると、既に朝の光が庭を淡く照らし出していた。お民にとって、長い一夜が終わったのだ。
 早朝のひんやりとした大気がお民を包み込む。
 水戸部に付き添われ、玄関の式台から庭へ降り、門まで歩いてゆく途中、お民の脚がふっと止まった。
「―きれい」
 思わず呟かずにはおれないほど、庭の一角が燃えていた。いや、正確には紅蓮の焔が燃え立っているように見えるほど、紅い花が一面に群れ咲いている光景が見事であったのだ。
「曼珠沙華にございますな」
 傍らの水戸部が静かな声音で言った。
 曼珠沙華、別名彼岸花。秋のこの時季には比較的、どこにでも見られる花だが、石澤家の庭にも今を盛りと群れ咲いている。
 曼珠沙華を死人(しびと)花(ばな)とも呼ぶことを知っている者は、そう多くはないかもしれない。墓場でよく見かけるゆえ、そんな名が付いたとも云われる。
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