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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第12章 第三話・参
「そうだな、お前は龍じゃねえ、松だ。ごめんな、父ちゃん、お前があんまり龍に似てるもんだから、間違っちまった。でも、お前は龍じゃねえ、松なんだ。間違っちゃ、駄目だよな」
まるで己れ自身に言い聞かせるような言葉だった。
「松、松よう。お前はどこにも行くなよ。なあ、松」
源治が涙声で言い、松之助を抱きしめた。
「うん、おいら、どこにも行かないよ。だって、おいら、兄ちゃの次に父ちゃが大好きだもん」
松之助が嬉しげに言うと、源治が顔をくしゃくしゃにした。―源治は泣いていた。
「そうか、お前は龍がいちばん好きか」
「うん、おいら、兄ちゃがいっとう好き。でも、父ちゃ、兄ちゃは、いつ帰ってくるの?」
長い沈黙があった。
お民は良人が一体、この無邪気で残酷な質問にどのように応えるか、はらはらしながら見守っていた。
しばらく後、源治が眼をしばたたいた。
「いつか逢えるさ。それにな、松。龍はお前の心の中にずっと生きてる。お前が龍を、兄ちゃをいっとう好きだと思ってる限り、龍はいつまでも生きてる。お前が龍を思い出してやりさえすりゃア、いつだって龍には逢えるよ」
「―?」
きょとんとした顔で源治を見る松之助に、源治は泣き笑いの顔で肩をすくめた。
「―うん!」
二歳になったばかりの松之助がこの時、源治の言葉をどこまで理解したかは判らない。恐らく、判らずに頷いたのだろうけれど、松之助はさも判ったように元気よく返事をしたのだった。
その日を境に、源治は再び生きる気力を取り戻したようであった。龍之助を失い、一度は散り散りになりかけた一家の絆は再び強く結びついた。
残された松之助を忠心に、源治とお民は再び日々を懸命に生きてゆこうとする。
まるで己れ自身に言い聞かせるような言葉だった。
「松、松よう。お前はどこにも行くなよ。なあ、松」
源治が涙声で言い、松之助を抱きしめた。
「うん、おいら、どこにも行かないよ。だって、おいら、兄ちゃの次に父ちゃが大好きだもん」
松之助が嬉しげに言うと、源治が顔をくしゃくしゃにした。―源治は泣いていた。
「そうか、お前は龍がいちばん好きか」
「うん、おいら、兄ちゃがいっとう好き。でも、父ちゃ、兄ちゃは、いつ帰ってくるの?」
長い沈黙があった。
お民は良人が一体、この無邪気で残酷な質問にどのように応えるか、はらはらしながら見守っていた。
しばらく後、源治が眼をしばたたいた。
「いつか逢えるさ。それにな、松。龍はお前の心の中にずっと生きてる。お前が龍を、兄ちゃをいっとう好きだと思ってる限り、龍はいつまでも生きてる。お前が龍を思い出してやりさえすりゃア、いつだって龍には逢えるよ」
「―?」
きょとんとした顔で源治を見る松之助に、源治は泣き笑いの顔で肩をすくめた。
「―うん!」
二歳になったばかりの松之助がこの時、源治の言葉をどこまで理解したかは判らない。恐らく、判らずに頷いたのだろうけれど、松之助はさも判ったように元気よく返事をしたのだった。
その日を境に、源治は再び生きる気力を取り戻したようであった。龍之助を失い、一度は散り散りになりかけた一家の絆は再び強く結びついた。
残された松之助を忠心に、源治とお民は再び日々を懸命に生きてゆこうとする。