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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第12章 第三話・参
 源治が松之助に手を引かれ、再び立ち上がったのとほぼ同じ頃。
 石澤の屋敷の一室で、嘉門が祥月院と向き合っていた。
 ここは奥向きにある祥月院の居室である。
 居間と続きになった次の間は炉を切ってあり、ここで茶を点てて飲める茶室にもなっていた。
 祥月院が天目茶碗を嘉門の前に置く。点てたばかりの抹茶の馥郁とした香りが室内に漂った。
 床の間を背にした嘉門が軽く一礼し、茶碗を手に取る。床の間には紅葉の樹とその下で戯れる雀が色鮮やかに描かれている。
 掛け軸の手前の備前には石蕗がひと枝。
 落ち着いた備前焼きの花器に、石蕗の黄色がよく映えている。何もかもが計算し尽くされた上での調和の元に成り立った美しさがこの部屋にはあった。
 我が母ながら、これほどの教養を備えた婦人であるのに、何ゆえ、母の心は凍りついてしまったように冷淡なのだろうかと訝しく思わずにはいられない。
 それは恐らくは、母の不幸な結婚によるところが大きいだろう。
 嘉門の父方の祖父―石澤家の先々代当主と先老中松平親嘉(ちかよし)とは身分を越えた友であった。若い砌、同じ道場、学問所に通い、共に切磋琢磨した間柄であったともいう。二人は酒を酌み交わしながら、他愛もない約束を交わした。
 即ち、互いの倅と娘を長じた暁には娶せるというものだった。石澤琢磨(たくま)兵衛(ひようえ)―嘉門の父と母祥月院の婚約は二人が物心つく前から既に定められたものだった。
 母は親藩大名の姫君として、かしずかれて育った。若い頃から権高で、身分が何より人を決めるのだと信じて疑っていなかった。
 そんな母にしてみれば、大藩の藩主にして老中の娘、将軍家とも縁続きというやんごとない身分に生まれながら、直参御家人とはいえ、はるかに格下の五百石取りの一旗本に嫁ぐのは屈辱に他ならなかった。
 とはいえ、父の命であれば、従うしかすべはない。かくして、藤姫と呼ばれていた母は十六で十九だった父に嫁いだ。
 二人の結婚は最初から失敗だった。父は我が儘で気位の高い妻に辟易し、新婚の夢覚めやらぬ頃から側室を持ち、子を孕ませた。
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