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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第12章 第三話・参
幸いにもその側室の生んだのは姫であったため、正室である母の立場は脅かされずには済んだ。その一年後、母は待望の男児を授かる―それが、嘉門だった。
ところが、嘉門の誕生と同じくして、その側室もまた男子を生んだ。母は父の愛を奪ったその女と子を憎んだ。もっとも、その側室と生まれた子の死は、あくまでも病死ということになっている。
側室は産後の肥立ち良からず亡くなり、生まれた赤児―嘉門にとっては生きていれば異母弟になる―も生後二ヵ月で生母の後を追うように亡くなった。
が、当時から忌まわしい噂があった。嘉門の母、つまり正室が父の寵愛を独占する側室とその子を呪詛したという怖ろしい噂だ。
噂の真実は判らない。その側室の残した姫、即ち嘉門にとっては異母姉は、その後、十三で亡くなった。十のときに既に縁づき先も決まっており、来年には婚礼を控えての病死であった。
儚げな風情の、優しい美しいひとだった。嘉門にも弟としての情愛を注いでくれた。
だが、母がその義理の娘に事ある毎に辛く当たっていたのを、嘉門は知っている。
姉姫に仕えていた侍女の中には、
―姫さまは奥方さまにいびり殺された。
そう言っている者もいた。
両親の間はついによそよそしいままで父は逝き、嘉門は十五歳の若さで家督を継いだ。
母自身がそうであったように、母は嘉門の幼い中から結婚相手を決めた。
相手は京の都の姫。権中納言家の姫で、これも母の実家松平家のつてで決まったものだ。
父は生前、何かにつけては実家の威勢を鼻に掛ける母をたいそう嫌っていた。
そして、結局、母が息子の伴侶にと選んだ姫もまた、母のひな形のような女であった。天皇家の血をも引く高貴な血筋と都人であるという誇りを持つ公卿の姫君は、気位ばかり高くて何の面白みもない、つまらないだけの女であった。
父と同様、嘉門の結婚も失敗に終わる。十七で娶った妻とは打ち解けぬまま、妻は十年後に亡くなった。
その間、嘉門はお忍びで江戸の町に出ては、吉原や岡場所といった遊廓で派手に浮き名を流した。売れっ妓の太夫や芸者と深間になったことも何度かはある。
ところが、嘉門の誕生と同じくして、その側室もまた男子を生んだ。母は父の愛を奪ったその女と子を憎んだ。もっとも、その側室と生まれた子の死は、あくまでも病死ということになっている。
側室は産後の肥立ち良からず亡くなり、生まれた赤児―嘉門にとっては生きていれば異母弟になる―も生後二ヵ月で生母の後を追うように亡くなった。
が、当時から忌まわしい噂があった。嘉門の母、つまり正室が父の寵愛を独占する側室とその子を呪詛したという怖ろしい噂だ。
噂の真実は判らない。その側室の残した姫、即ち嘉門にとっては異母姉は、その後、十三で亡くなった。十のときに既に縁づき先も決まっており、来年には婚礼を控えての病死であった。
儚げな風情の、優しい美しいひとだった。嘉門にも弟としての情愛を注いでくれた。
だが、母がその義理の娘に事ある毎に辛く当たっていたのを、嘉門は知っている。
姉姫に仕えていた侍女の中には、
―姫さまは奥方さまにいびり殺された。
そう言っている者もいた。
両親の間はついによそよそしいままで父は逝き、嘉門は十五歳の若さで家督を継いだ。
母自身がそうであったように、母は嘉門の幼い中から結婚相手を決めた。
相手は京の都の姫。権中納言家の姫で、これも母の実家松平家のつてで決まったものだ。
父は生前、何かにつけては実家の威勢を鼻に掛ける母をたいそう嫌っていた。
そして、結局、母が息子の伴侶にと選んだ姫もまた、母のひな形のような女であった。天皇家の血をも引く高貴な血筋と都人であるという誇りを持つ公卿の姫君は、気位ばかり高くて何の面白みもない、つまらないだけの女であった。
父と同様、嘉門の結婚も失敗に終わる。十七で娶った妻とは打ち解けぬまま、妻は十年後に亡くなった。
その間、嘉門はお忍びで江戸の町に出ては、吉原や岡場所といった遊廓で派手に浮き名を流した。売れっ妓の太夫や芸者と深間になったことも何度かはある。