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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第12章 第三話・参
 しかし、本気の恋をしたことはなかった。
 ただ己れの欲求に突き動かされ、刹那の快楽、性欲と鬱憤のはけ口を女体に求めたにすぎない。
 もう、本気の恋なぞ自分には永遠に縁のないものだと思い込んできた。だが。
 運命とはつくづく皮肉であり、面白いものだと思う。三十六になったある日、その恋が転がり込んできた。
 明るく澄んだ瞳に、理知の光と優しさを持った女。娘と呼ぶにはいささか年増だが、嘉門から見れば、まだまだ娘といって良い二十四の若い女だった。ただ美しいだけではない。お民ほどの美しさの女であれば、世間には大勢いるだろう。
 心映えの良さが外にも滲み出て、その美しさに更に輝きを添えていた。あれだけの美貌、聡明さ、優しい気性。加えて、身体も良い。豊かな乳房に、吸い付くような白い膚。お民のすべてが、嘉門には理想的に思えた。
 ―もっとも、そう思うのは惚れた弱みかもしれないが。
 何度手に入れようとしても、まるで野兎がするりと狩人の手から逃れるように、嘉門の手から逃れ、飛び立ってしまう可愛い小鳥。
 龍之助のことは、あの女には申し訳ないことをしたと心底思っている。お民は既に大切な者の死に幾度も直面している。
 最初の良人だという男、そして、その男との間に儲けた長男をお民は失っているのだ。
 また、嘉門の寵愛を受けて最初に懐妊した子も六ヵ月で流れた。
 我が子を二人まで亡くしたお民にとって、またしても遭遇した我が子の死は、辛いものであったに相違ない。龍之助を石澤家の世継として迎え入れるという件については、元々は母の意であったとしても、嘉門も納得した上でのことだった。ゆえに、母だけを責めるのは間違いというものだろう。
 ひとたびは孫として引き取った龍之助を溺愛しておきながら、お民の前で龍之助を嘉門の子ではないと言った母、あのときの母の言動を嘉門はけして許しているわけではない。
 あれほど大人しく従順であったお民が真っ向から母に逆らったのも致し方ないことだ。
 嘉門の側女としてこの屋敷にいた頃、あの女は母からどれほど罵倒されようと、黙って耐えていた。
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