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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第12章 第三話・参
いつだったか、母がお民の頬を些細なことでぶち、嘉門がそれについて抗議したことがある。怒り狂った母があまつさえお民に手を掛けようとするのに、流石の嘉門も堪忍袋の緒が切れ、腰の刀に手を掛けたことがあった。
その折、あの女は泣いて嘉門に縋ったのだ。
―私のせいで、殿のおん大切なお母上さまをあのようにお怒り申し上げさせてしまって、申し訳ございませぬ。
優しい女だった。嘉門とて、愚かではない。あの女の優しさが母の言うように上辺だけのものなら、とうにあの女のことなぞ忘れて果てていただろう。
あの女は真心を持っている。単に美しい女、身体だけ良くて閨での相性の良い女であれば、ごまんといる。だが、お民のように真心を持った女はけして多くはない。いや、恐らく―お民との出逢いは、砂浜でたったひと粒の砂金を見つけ得たような稀有なものであったと思う。
そのお民が龍之助の死に際して、あれほど感情を露わにして母に刃向かったのは、母がお民だけではなく龍之助をも冒涜するような言葉を吐いたからだ。
もう、良い。
あの女を苦しめるのは、これで終わりにしてやりたい。
お民は十分すぎるほど苦しんだはずだ。
嘉門は静かな諦めを感じ始めていた。
それに、この身体。我が身の身体はもう大分前から酒毒に蝕まれていた。元々酒は好きではあったけれど、お民を手放して以来、女恋しさ、淋しさに耐えかねて昼夜を問わず浴びるように酒を呑み続けたことが身体を病むきっかけとなった。
我ながら女々しすぎるとは思うが、気付いたときには既に遅かったのだ。嘉門の身体の臓腑は、酒の毒のせいで満足に働かなくなっている。
医者は養生すれば、あと数年は保つと言ってはいるが、このような生命惜しくはない。
嘉門は医師の処方したすべての薬を飲むことなく、棄てていた。そのことが、長らえることのできる寿命をみすみす自ら縮めているのだというのも十分承知した上である。
石澤の家は分家からでも養嗣子を迎えれば、何とか断絶の憂き目を見ずに済むだろう。何も今更、惚れてもおらぬ女を抱いてまで、子を生ませる必要はない。
それに、これほどまでに病んだ身体で、既に女に子を孕ませることができるのかどうかも疑問だ。
その折、あの女は泣いて嘉門に縋ったのだ。
―私のせいで、殿のおん大切なお母上さまをあのようにお怒り申し上げさせてしまって、申し訳ございませぬ。
優しい女だった。嘉門とて、愚かではない。あの女の優しさが母の言うように上辺だけのものなら、とうにあの女のことなぞ忘れて果てていただろう。
あの女は真心を持っている。単に美しい女、身体だけ良くて閨での相性の良い女であれば、ごまんといる。だが、お民のように真心を持った女はけして多くはない。いや、恐らく―お民との出逢いは、砂浜でたったひと粒の砂金を見つけ得たような稀有なものであったと思う。
そのお民が龍之助の死に際して、あれほど感情を露わにして母に刃向かったのは、母がお民だけではなく龍之助をも冒涜するような言葉を吐いたからだ。
もう、良い。
あの女を苦しめるのは、これで終わりにしてやりたい。
お民は十分すぎるほど苦しんだはずだ。
嘉門は静かな諦めを感じ始めていた。
それに、この身体。我が身の身体はもう大分前から酒毒に蝕まれていた。元々酒は好きではあったけれど、お民を手放して以来、女恋しさ、淋しさに耐えかねて昼夜を問わず浴びるように酒を呑み続けたことが身体を病むきっかけとなった。
我ながら女々しすぎるとは思うが、気付いたときには既に遅かったのだ。嘉門の身体の臓腑は、酒の毒のせいで満足に働かなくなっている。
医者は養生すれば、あと数年は保つと言ってはいるが、このような生命惜しくはない。
嘉門は医師の処方したすべての薬を飲むことなく、棄てていた。そのことが、長らえることのできる寿命をみすみす自ら縮めているのだというのも十分承知した上である。
石澤の家は分家からでも養嗣子を迎えれば、何とか断絶の憂き目を見ずに済むだろう。何も今更、惚れてもおらぬ女を抱いてまで、子を生ませる必要はない。
それに、これほどまでに病んだ身体で、既に女に子を孕ませることができるのかどうかも疑問だ。