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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第12章 第三話・参
 祥月院も重臣どもも、嘉門が既に重い病に冒されていると知っている。その余命がけして長からぬことも、既に新たな子の誕生が期待できそうにもないことまで心得ている。だからこそ、お民の生んだ落胤である龍之助に眼を付け、世継として迎え入れようと画策したのだ。
 嘉門が皮肉な想いで自嘲的に考えた時、眼前の母―祥月院が焦れたように言った。
「それでは、殿、いかにしても殿はこたびの計画にはご賛意下されぬと?」
「は、申し訳ござりませぬ。ちと考え事を致しておりました。はて、何のお話でござりましたか」
 嘉門が飲み終えた茶碗を置きながら訊ねると、祥月院があからさまに眉をひそめた。
「例の―、お民の生んだ子のことにございますよ。確か龍之助君は双子であったと聞いておりまする。双子だというのであらば、今一人、その片割れがおりましょう。もう一人の若君をこちらにお迎えしてはいかがかと申し上げておりまする」
 嘉門は大仰に溜息をついた。
「また、その話にございますか。その件につきましては、既に何度もならぬと申し上げておるではございませぬか。第一、母上は龍之助みまかりし折、お民の前で仰せになられたでありましょう。龍之助は我が子にはあらず、あのような女の生んだ子ならば、私の子であるかどうかも疑わしいと。であれば、今更、そのような子を世継として迎え入れる必要もございませんでしょう」
 祥月院がうっと詰まった。
「それは、確かにそのように申しましたれど、あれは売り言葉に買い言葉と申すもの。あの女があまりに立場も身分もわきまえぬゆえ、つい懲らしめのために口にしたことにございます。龍之助君が紛れもない殿の御子であることは、信頼できる家臣に入念に調査をさせ確かめてございます」
 三年前、嘉門がお民を連れ込んだ出合茶屋の女将は、金を摑ませると、当時の出来事―、お民と嘉門の間に起こったことについて洗いざらい喋った。
 嘉門がチラリと母を意味ありげな眼で見た。
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