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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第12章 第三話・参
「売り言葉に買い言葉、にございますか。ただの他愛もない喧嘩によるものだとしても、可愛い孫の死の哀しみも癒えぬ時、お口になさるべき言葉とは思えませぬな。とにかく、この話には私は反対にございます。母上も往生際が悪い。良い加減にお諦めなされませ」
「さりながら、殿。それでは、この石澤家は一体、どうなってしまうのです? 初代さま以来連綿と続いてきたこの石澤家のゆく末は」
 祥月院がいつになく狼狽えている。
 母は母なりに、嫁いできたこの家を守ろうとしているのだとは判っていた。実家よりは格下だと蔑んでいた婚家のために奔走する母、それもいささか滑稽だとは思うけれど、女というものは、そういう生きものなのだろう。
 どこに行っても、したたかに根を下ろし、生きてゆく。
「殿も武家にお生まれになられたからには、お世継ぎを儲けるのが当主の第一の務めとはご存じでござりましょう」
 祥月院が言い募るのに、嘉門は皮肉げに口許を引き上げた。
「母上、何も石澤の家はこの私が―あなたの血を引く息子が継がねばならぬということはございませぬ。分家筋には、父上の兄弟たちもいる。その方か、その子のいずれかを迎えれば良いだけのことにはございませぬか」
 嘉門は言うだけ言うと、立ち上がった。
「今日はご馳走さまにございました。母上のお点てになった茶は美味い。また、今度は後味の悪い話は抜きで、是非ともご馳走になりたいものにございます」
 嘉門がいなくなった後、祥月院は唇を噛みしめ、その場に擬然と座っていた。
 その瞳の奥で燃える焔は、そも何の焔であったろうか。
 ただ一つ、祥月院がこの日、知り得たことは、彼女の大切なたった一人の従順な息子が既に母親の言いなりにはならず、己が意思で歩き始めたことだけだった。
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