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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第12章 第三話・参
 その年も終わり、江戸の町は新しい年を迎えた。
 大切な人を喪っても、月日は流れ、季(とき)はうつろってゆく。可愛い盛りの我が子龍之助を亡くすという哀しみをも呑み込んで、お民の周囲ではゆっくりと刻が流れていった。
 龍之助とそっくりな松之助の健やかな成長を見ていると、ふいに哀しみが湧き上がってくることもあった。あの子が生きていればと、最初の子兵太を失ったときのように、つい亡くなった子の歳を数えようとするときもあった。
 何かにつけ、龍之助の様々な表情を思い出すことはしょっ中で、その度にお民は袂で湧き出た涙をそっとぬぐった。しかし、お民には支えてくれる良人源治、可愛い我が子松之助という家族がいる。龍之助を亡くした哀しみを何とか乗り越えられたのも、二人がいたからに他ならなかった。
 すべてものが灰色に塗り込められる寒く長い冬も過ぎ、やがて江戸に再び春がめぐり来た。
 弥生も半ばに入ったその日、お民は徳平店の共同井戸で大根を洗っていた。長屋には住人たちが共同で使う井戸がある。朝は洗濯や米とぎをする女たちが群がり、亭主の愚痴や子どもの自慢から始まり、他愛ない世間話まで様々な話題で盛り上がる。
 いわば、長屋の女たちにとっては社交の場でもある。
 源治の好物はだし巻き卵と大根の煮物、それに鰻だ。お民は裁縫はからきし駄目だけれど、料理はそこそこ上手い。近頃では花ふくの岩次が忙しいときに限って簡単な料理なら任せてくれるほどである。
 岩次から直接料理を教えられることはないが、板場で包丁を握るその仕事ぶりを傍で見ているだけで勉強になる。
 源治は若いせいか、食欲も旺盛で、その食べっぷりは見ていて気持ちが良いほどだ。最初の良人兵助は小食で、おまけに心ノ臓の持病も患っていた。兵助のために少しでも精の付くものをと、お民は色々と工夫した献立を並べたものだ。
 今夜はその源治の好物の大根の煮物と、鰯の焼いたものにするつもりである。今は昼下がり、花ふくは昼時の忙しい時間も過ぎ、空いている。その合間に、お民はいつものように長屋に帰って、源治のために晩飯の用意を整えていた。
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