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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第12章 第三話・参
 源治はお民のこしらえたものなら、何でも歓んで食べる。昼過ぎに長屋に戻ってくるときは大抵は松之助も一緒だ。たまに、おしまが預かってくれることもあるけれど、お民が店に出ている間はずっと松之助の守をしてくれるおしまに、そうそう甘えられるものではない。
 今日は、同じ長屋の子どもたちが松之助の面倒を見てくれている。まだ漸く二歳の松之助は遊び相手にもならないのだが、徳平店の子どもたちは松之助を弟のように可愛がった。
 大根の煮物を見て歓ぶ良人の顔を思い出し、何とはなしに嬉しくなったときである。
「おばちゃん」
 長屋の狭い路地を子どもが一人、息せききって駆けてきた。
「あら、安(や)っちゃんじゃない」
 安吉は、斜向かいに住む桶職人留造の倅である。歳は九歳、来年には日本橋のお店に丁稚として奉公に出されることが決まっていた。裏店の子はたいがい八歳から十歳の間には奉公に出る。ある者は職人になるために親方の許に住み込みで修業し、ある者は安吉のように丁稚として商家に入る。
 女の子は女中として商家に上がる者も少なくはない。いわば、安吉にとって今年は親許で甘えて過ごせる最後の年になるわけだった。
「どうしたの?」
 お民は洗い終えたばかりの大根の水を切り、立ち上がった。
「松っちゃんが変な人と一緒に行っちまったんだ」
「えっ」
 お民は予期せぬ言葉に眼を瞠った。
「それって、どういうこと?」
 安吉はまだ幼さの残る丸い顔を不安でいっぱいにしている。
 お民の中で厭な予感が押し寄せた。
「うちの松之助は筆屋のおさきちゃんやうちの隣の鶴ちゃんと遊びにいったはずだけど」
 筆屋の娘おさきというのは、この長屋の子ではない。近隣の四ツ辻に店を構える小さな筆屋の二番目の娘だ。歳は八歳になり、この長屋の子どもたちともよく遊んでいる仲間である。
 鶴ちゃんというのは、棒手振りの魚屋弐助の倅鶴次で、五つになる。お民の暮らす住まいの右隣に住んでいた。
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