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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第12章 第三話・参
「おいら、今日は一番下の妹の子守をしなきゃならなくて、一緒に遊べなかったんだ。それで、やっとお紺が眠ったんで、おっかあが遊びにいっても良いって言って、急いでいつもの場所に行ったんだよ。そうしたら、松っちゃんが変なおじさんに連れていかれるところだった」
 安吉には今年早々、三人めの妹が生まれたばかりで、留造の女房お喜多は安吉をかしらに五人の子どもたちを毎日、金切り声を上げながら追いかけ回している。安吉もよく赤ン坊をねんねこ袢纏でくるみ、背に負うて守をしている姿が見かけられた。
 長屋の子どもたちが普段から遊び場にしているのは、長屋の木戸口を出てすぐ先の捨て子稲荷の近辺であった。捨て子がよく棄てられていることから、この名で呼ばれるようになったというが、小さな祠が空き地にぽつねんと建てられているだけで、周囲には何もない。そのため、子どもたちの格好の遊び場になっていた。
 今日も子守から解放された安吉は真っ先に捨て子稲荷めがけて走った。
 安吉の話では、彼が見たのは松吉を抱きかかかえて連れ去る男の後ろ姿だけであったという。
 安吉が残されたおさきと鶴次に訊ねたところ、松之助を連れ去った男は松之助に、
―おとっつぁんが待ってるから、おとっつぁんのところに連れていってあげよう。
 と言った。
 年長のおさきが知らない人に付いていったらいけないよと止めたけれど、男が怖い眼で睨んできたため、それ以上、何も言えなくなってしまった。
 松之助は人懐っこいところがある。その点も、やんちゃではあっても癇が強く怖がりであった兄龍之助とは違っていた。誰にでも懐き、すぐに抱っこされてしまうのだ。
「安っちゃん、松を連れてったおじさんって、どんな感じの人だった?」
 訊ねると、安吉は首を傾げ思案顔になった。
「うん、おいらも後ろ姿だけしか見なかったから、そう言われてもよっく判らないなぁ」
 困ったように頭をかく安吉に、お民は屈み込み、安吉の顔を覗き込んだ。
「どんな小さなことでも良いの。憶えていることがあったら、教えてちょうだい」
 なおも何かを思い出すような顔をしていた安吉がパッと顔を輝かせた。
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