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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第12章 第三話・参
「そう言ゃア、おばちゃん。松っちゃんを連れてったのはお侍みたいな恰好をしてたよ。こう二本差しを腰に差してさ、何だか偉そうな感じがしたな」
「お侍―」
 お民は愕然とした。
 厭な感じはどんどん強くなってゆく。そして、安吉から松之助を連れ去った男が侍らしかったと聞かされ、その想いは決定的になった。
「ありがと、安っちゃん」
 安吉に礼を言うと、お民は一目散に駆けた。
 とにかく源治にことのことを話さなくてはと思ったところで、ハッとする。
 迂闊だった―。お民は唇を強く噛みしめた。
 源治の帰りが今夜は遅くなるのを忘れていた。
 四、五日前のことだ。源治が夕飯をかき込みながら、話していたっけ。
 いつも世話になっている大工の棟梁の一人娘が若い弟子を聟に迎えるとかで、確か今日が祝言だと聞いた。源治が直接祝言に出るわけではないが、祝言を挙げた後、いつも世話になっている若い大工や左官が集まって、棟梁や新郎新婦を囲んでささやかな祝いの席を儲けるのだと話していた―。
 世間話のついでのように話していたので、お民もそれほど深くは受け止めていなかったのだ。おめでたいことだなと思っただけで、格別に記憶にとめることもなかった。
 源治が今夜、いつもどおりに家で夕飯を取ると思い込んでいたのだが、とんだ勘違いだった。
「どうしよう、お前さん」
 握りしめた指先が震えるのが判った。
 お民も棟梁に逢ったことはある。福々とした小太りの容貌はまるで大黒さまを思わせる福相で、もうかれこれ四十五近いのだと聞いている。早くに女房を亡くし、男手一つで育て上げた愛娘の晴れ姿は、棟梁にとっても感無量だろう。
 折角の晴れの日をできれば邪魔したくはない。源治だとて、棟梁だけでなく、他の仕事仲間の手前、面目もあるだろう。内輪だけでの祝い事に、水を差すような真似だけはしたくなかった。
 となれば。お民一人で事に対処するしかない。だが、どうすれば良いのか。
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