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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第12章 第三話・参
お民は今頃は祝宴に連なっているであろう源治にそっと呼びかけた。
 運命は自分だけのもの、他人の勝手にはさせない。今度ばかりは、松之助を渡すつもりはお民には毛頭なかった。
 挑むようなまなざしを、お民は道の彼方へと向ける。
 今頃、松之助はどうしているだろう。
 ふいに松之助の泣き顔がちらついて、お民は自分までもが泣きたくなった。弱い自分をこんなことでは駄目だと叱咤する。
 月だけが頼りの道を懸命になって駆けながら、お民は息苦しさにも似た、胸を突き上げるような焦燥に駆られていた。

 お民が長屋を出てふた刻ばかり後。
 源治は月を見上げながら、鼻歌混じりに夜道を歩いていた。
 今夜の月は本当にきれいだと思った。
 棟梁の一人娘お和香は十八になる。聟となった弟子の佐七はお和香より三つ上の二十一、棟梁が将来を見込んでいる腕も人柄も申し分のない男だ。あの二人であれば似合いの夫婦(めおと)となるだろう。
 お和香の白無垢姿に、棟梁は感極まって、おいおいと声を上げて泣いていた。その姿に、源治を初めとした他の若い連中も貰い泣きしてしまうほどだった。
 お和香は取り立てて器量良しというわけではないが、棟梁に似て気立ての良い娘だ。白無垢姿も初々しく、よく似合っていた。
―お和香ちゃんもきれいだったけど、やっぱり、あいつの方が上だ。
 つい思い出してしまうのは、お民の花嫁姿だ。
 源治がお民と祝言を挙げたのは四年前のことになる。当時、源治が二十一、お民が二十三だった。長屋の差配彦六を仲人として徳平店の店子たちが集まり、簡素ではあるが心温まる祝言を挙げることができた。
 彦六の女房がその昔、着たという白無垢を借りたお民はたいそう美しかった。白磁のようなすべらかな膚に白無垢が映えて、輝くばかりの美しさであった。
 惚れた女と晴れて夫婦となったあの日を、源治はけして忘れはしないだろう。お民の最初の良人兵助が亡くなってから丸一年、源治は源治なりに男としてのけじめを守ったつもりだった。斜向かいに暮らしながらも、祝言を挙げるまではお民に指一本触れないと決めていた。
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