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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第12章 第三話・参
 晴れて夫婦となった夜、恥じらいながら源治を受け容れたお民に触れながら、源治はこの女を一生離さないと誓った。
 それが、どうだろう。この四年間、お民は辛いことばかりの連続だった。所帯を持って初めの一年だけは人並みに貧しいながらも穏やかに暮らしたものの、一年が過ぎた頃にお民は石澤嘉門に見初められ、その屋敷に妾奉公に上がらなければならなくなった。
 年季前に嘉門の屋敷から返されてきたお民は、夜毎、悪夢を見てはうなされた。それが嘉門の屋敷にいたときの日々が原因だとおおよその見当はついたものの、どうしてやることもできず、源治が触れようとすれば逃げるお民に苛立ちを憶えたこともあった。
 そして、嘉門に再び犯され、予期せぬ懐妊をしたお民が源治に黙って姿を消してしまった。そのお民を追って江戸から遠く離れた螢ヶ池村まで行き、お民を説得して再び二人で暮らし始めたのだ。
 江戸に戻ってからも苦難の連続だった。
 折角授かった龍之助を石澤家に奪われ、龍之助は夭折という最悪の結果を迎えて今に至っている。
 一体、あの女が何をしでかしたからといって、天は次々に苛酷な試練を与えるのだろうか。
 自分は傍にいながら、結局はいつも何もしてやれず、惚れた女を守ってやることすらできない。
 だが、これでもう何もかも上手くゆくはずだ。龍之助はいなくなってしまったが、自分たち夫婦にはまだ松之助が残されている。これから先は龍之助の分まで、松之助に愛情を注いで大切に育ててゆくことが逝った子への供養にもなるはずだ。
 源治は琥珀色に染まった月を眺めながら、つらつらとそんなことを考えていた。
 そのときの源治には、明るい未来への希望があった。
 夜風に乗って、花の香りが漂ってくる。
 まるで一糸纏わぬ女の素肌を思わせるような妖しい香りで―源治はつい、閨の中でのお民の白い身体を連想してしまった。
 自分でも苦笑しながら、徳平店までの帰り道を歩いてゆく。
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