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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第12章 第三話・参
 そのわずか後、源治は、お民と松之助が待っているはずの我が家で茫然と立ち尽くしていた。
 当然ながら、狭い四畳半には恋女房と我が子の姿はなく、もぬけの殻である。灯りも点っておらぬ我が家の前に立ったときから、源治は何故か胸騒ぎを感じたのだ。
 寝静まっているには早すぎる時間だし、眠っているにしては人の気配がなさすぎた。
 案の定、腰高障子を開けると、家の中には誰もおらず、森閑とした闇がひろがっているばかりだった。
 とりあえず行灯に火を入れると、片隅の小机に小さな紙片が残されていた。
 たどたとしい平仮名が並んでいたが、何とか源治にも読むことはできた。ざっと眼を通した源治の貌がさっと蒼褪める。
 書き置きには、松之助が侍らしい男に昼間、連れ去られたこと、自分はこれから松之助を取り戻しに石澤邸に乗り込むつもりだと走り書きされている。
 詳しいことは、花ふくの岩次にすべて話してあるから、花ふくへ行って欲しいとも書いてあった。
 しかし、これだけで十分だ。
 お民の残したこの短い文面だけで、源治はすべてを悟った。
 龍之助を失った石澤嘉門は今度は、残された松之助にまで魔手を伸ばそうとしたのだ!
 源治は、松之助を攫わせた張本人が嘉門ではなく、その母祥月院であることを知らない。
 お民が単身、石澤の屋敷に乗り込んだと知り、源治は慄然とした。
「―馬鹿野郎」
 呟きとも取れぬ独り言が洩れる。
 お前はまた、俺に何も言わねえで、一人で行っちまうのか?
 嘉門はいまだにお民に惚れている。同じ男だから、源治にも判るのだ。あの男は今でもお民への恋情を棄ててはいない。
 そんな男の許にたった一人で乗り込んでゆくなんて、あまりにも無謀すぎる。松之助のことはともかくとして、嘉門が飛び込んできたお民をみすみす屋敷から出すだろうか。
 お民の残した走り書きを握りしめ、源治は紙片の置いてあった小机に安置された位牌をそっと手に取った。
 〝龍之助童子〟と書かれた小さな位牌を額に押し当てた。龍之助の遺髪はお民がいつも懐に収め、肌身離さず持っている。
「龍、母ちゃんと松を守ってやってくれ」
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