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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第13章 第三話・四
 一方、嘉門はお民を前に複雑な想いを抱えていた。
 久方ぶりの女の豊満な身体の味わいを思い出し、身体が熱くなる。かつて彼を惑溺させた女の白い膚を思う存分堪能できるかと思うと、心が逸った。
―このことは俺が対処する。松之助は必ずやそなたの許につつがなく返すと約束するゆえ、そなたは先に帰って、子の帰りを待つが良かろう。
 あの時、お民に〝取引〟を申し出る間際、嘉門は確かにそう言うつもりだった。それがすんでのところで、このようなことになったのは、やはり自分の未練と諦めの悪さのせいだろう。
 今、眼前に、惚れに惚れ抜いた女がいる。
 今、飛び立とうとする小鳥の翼を捉えねば、この小鳥を腕に抱くことは永遠に叶わない。
 どうせ、自分の方から懐に飛び込んできたのだ。ここがどういう場所か、嘉門が自分をどう思っているかを知った上で、お民は自分から嘉門の許に来た。
 つまりは、みすみす罠にかかりにきた獲物の方が悪いのだ。敵地と言えるべき場所にのこのことやって来た可愛い獲物を捕らえたとて、誰が責めるだろう。
 嘉門は己れに言い訳のように言い聞かせながら、恍惚として呟く。
「―俺の可愛い獲物」
 お民は半ば強引に手を引かれ、引き寄せられる。
 そのまま褥に押し倒された。
 嘉門がお民の夜着の襟元を大きくくつろげる。
 男の顔が胸に近づいてきた。首筋に唇を這わせながら、嘉門の骨太な手がお民のふくよかな乳房をやや乱暴な仕種で揉みしだく。
 嘉門はふと気付いた。
 枕に顔を横向けて押しつけた女は、ギュッと眼を瞑って唇を噛みしめていた。
 まるで、この世のすべての災厄をその身に引き受けようとでも言わんばかりに歯を食いしばっている。
 この時、嘉門の中で哀しみともつかぬ感情が生まれた。
 
 嘉門の手が素肌の上を這い回る。
 お民は嫌悪感に固く眼を瞑り、けして男の顔が眼に入らぬように横を向いて枕に頬を押しつけた。
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