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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第13章 第三話・四
眼を瞑った刹那、源治の笑顔が眼裏に甦る。
―お前さん、私、また、この男に捕まってしまった。お前さんにどうやって謝ったら良いのか判らないよ―。
嘉門に抱かれたお民をこれまで幾度も変わらぬ態度で受け容れ、迎えてくれた源治であった。
もう二度と、良人を裏切ることはすまいと固く心に誓っていたはずなのに、心ならずもまた、源治を裏切ることになってしまった。
ともすれば、涙が溢れそうになる。
「そなたは、やはり、俺のことが嫌いなのだな」
嘉門がポツリと呟き、手を放した。
暗い、底なしの闇夜を映し出したかのような瞳で嘉門はなおもお民を見下ろしていた。
悄然とした嘉門が一瞬、眼にしたのは閉じた瞼から流れ落ちたひと粒の涙であった。
刹那、嘉門の中でやり切れなさと怒りがせめぎ合った。
―この女はこれほどまでに俺を拒むのか!
何故、この女が愛しているのが俺以外の男なのだ?
俺では、どうして駄目なのだ?
自分でも理不尽な想いだとは判っていながらも、怒りは燃え立ち、凶暴な高ぶりへと嘉門を駆り立ててゆく。
嘉門に舌を絡め取られ音を立てて吸われる。深い口づけに甘い衝動がお民の身体中を駆け抜けた。
やはり、お民の身体は馴れ親しんだ嘉門の愛撫をよく記憶していた。心はひたすら源治を求め嘉門を拒んでいるのに、身体は嘉門の指先一つ一つの動きに快さを感じてしまう。
絶望的な想いに慄然としているお民の口に、酒の香りがひろがった。ほのかな苦みを伴う味は紛れもなく、嘉門が好んで呑んでいた酒だ。
苦い酒の味がする接吻に、お民は眼を開いた。
「ご酒を召されていたのですか」
その時、初めて嘉門の顔色がただならぬ悪さであることに気付いた。枕許の行灯の火影が嘉門の整った面を照らしている。
しかし、その顔は行灯のほのかな灯りでも、赤黒く、眼は黄色っぽく変色しているのが判った。
「あまりに酒量が過ぎては、お身体に触ります」
―お前さん、私、また、この男に捕まってしまった。お前さんにどうやって謝ったら良いのか判らないよ―。
嘉門に抱かれたお民をこれまで幾度も変わらぬ態度で受け容れ、迎えてくれた源治であった。
もう二度と、良人を裏切ることはすまいと固く心に誓っていたはずなのに、心ならずもまた、源治を裏切ることになってしまった。
ともすれば、涙が溢れそうになる。
「そなたは、やはり、俺のことが嫌いなのだな」
嘉門がポツリと呟き、手を放した。
暗い、底なしの闇夜を映し出したかのような瞳で嘉門はなおもお民を見下ろしていた。
悄然とした嘉門が一瞬、眼にしたのは閉じた瞼から流れ落ちたひと粒の涙であった。
刹那、嘉門の中でやり切れなさと怒りがせめぎ合った。
―この女はこれほどまでに俺を拒むのか!
何故、この女が愛しているのが俺以外の男なのだ?
俺では、どうして駄目なのだ?
自分でも理不尽な想いだとは判っていながらも、怒りは燃え立ち、凶暴な高ぶりへと嘉門を駆り立ててゆく。
嘉門に舌を絡め取られ音を立てて吸われる。深い口づけに甘い衝動がお民の身体中を駆け抜けた。
やはり、お民の身体は馴れ親しんだ嘉門の愛撫をよく記憶していた。心はひたすら源治を求め嘉門を拒んでいるのに、身体は嘉門の指先一つ一つの動きに快さを感じてしまう。
絶望的な想いに慄然としているお民の口に、酒の香りがひろがった。ほのかな苦みを伴う味は紛れもなく、嘉門が好んで呑んでいた酒だ。
苦い酒の味がする接吻に、お民は眼を開いた。
「ご酒を召されていたのですか」
その時、初めて嘉門の顔色がただならぬ悪さであることに気付いた。枕許の行灯の火影が嘉門の整った面を照らしている。
しかし、その顔は行灯のほのかな灯りでも、赤黒く、眼は黄色っぽく変色しているのが判った。
「あまりに酒量が過ぎては、お身体に触ります」