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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第13章 第三話・四
 恐らく、嘉門のお民を想う心は本物だ。
 惚れている―というのも嘘ではないだろう。
 だが、お民はその愛に応えることはできない。お民の心から愛する男は未来永劫変わることなく、源治ただ一人なのだから。
 こんなにも烈しい愛をくれる男に、お民は何も返すことはできない。愛を得ることが叶わぬのであれば、潔く死んでゆこうと言う男に、一体何と言えば良いのだろう。
 ただ、今一つだけ言えることは、お民は嘉門に死んで欲しくはない―、ただそれだけだった。このことは絶対に口にすることはできないけれど、嘉門は亡くなった龍之助、更に松之助の実の父親なのだ。
 たとえ生涯、父子の名乗りをすることができなくても、二人の息子の父である嘉門には生きていて欲しいと思わずにはいられない。
 お民の眼に涙が溢れ、頬をつたう。
「俺のために泣いてくれるのか」
 嘉門は人さし指で、お民の白い頬を流れ落ちる涙の雫をぬぐい取る。
「もう十分だ。その涙を見ただけで、俺は十分だ。―何も思い残すことなく、逝ける」
 いつだったか、同じことがあった。
 初めて嘉門の側に上がった日、兵助との間に儲けた兵太のことを訊ねられたときのことだ。
―子は健やかに育っておるのか?
 そう問われたお民は、泣きながら応えた。
―五つの歳に川に落ちて亡くなりました。
 あのときも、嘉門はお民の頬をつたう涙をこうやって拭いてくれた。
 時々は信じられないくらいに冷酷になるけれど、本当は優しくて―。
 いつも、この世に独りきりになったかのような、傷ついて哀しい瞳を見せる。
 そう、お民は嘉門を本当は心根の優しい男なのではないかと思っている。
 見かけどおりの情け容赦ない表の顔の下に、まるで傷つきやすい小動物のような繊細な心を、子どものように頼りなげな素顔を隠し持っているのではないか、と。その素顔を隠し通すために、わざと冷徹なふりを装っているのでは、と―。
 だから、この男を心から憎みきれない。もちろん、好きだとか惚れているとかいうのとは全く違うけれど。
「最後に一つだけ、教えてはくれぬか」
 嘉門の問いに、お民は眼を見開く。
「俺は、そなたを不幸にしただけの男なのか?」
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