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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第13章 第三話・四
 しかし、それはほんの一瞬のことで、嘉門はまなざしの底に出逢ったときから変わらぬ淋しげな光を宿し、ただひと言呟いた。
「―達者で暮らせ。俺はそなたのことを何があっても生涯忘れぬ」
 お民は微笑み、もう一度、嘉門に深く頭を下げた。
 部屋を出たお民は侍女に導かれ、玄関へと進んだ。式台には水戸部邦親が既に待ち受けており、水戸部の腕にはすやすやと眠る松之助が抱かれていた。
「水戸部さま、何から何まで本当にありがとうございました」
 お民が礼を述べると、水戸部は黙って首を振った。
「それがしが致したことは結局、何であったのでありましょうな。お家のため、殿のおんためと思い、致したことが龍之助君のご不幸をお招き致しただけにござりました。どうか、この水戸部をお恨み下され」
 お民は静かな声音で言った。
「水戸部さま。どうかもう、龍之助のことはお気になさらないで下さりませ。今となっては、これがあの子の御仏に定められた命であったのかもしれません」
「―」
 水戸部は何も言わず、頭を下げた。
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