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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第13章 第三話・四
お民と松之助は石澤家が用意した駕籠に乗り、徳平店まで送り届けられた。
長屋の木戸口が見える場所で駕籠を降り、お民は龍之助を抱いて駕籠から降りた。
元来た道を戻ってゆく駕籠を見送り、お民はゆっくり歩き出す。
見慣れた粗末な裏店の光景が何故か、無性に懐かしく感じられた。暮れ六ツ頃にここを出てから、いかほどの刻が流れたのだろう。
実際に経った時間は短かったのか、それともお民が感じていただけ、途方もなく長かったのか。
琥珀の月はまだ、天空に掛かっている。
恐らく、お民が嘉門の屋敷にいたのは、ほんの数時間のものに違いない。
木戸口を抜け、奥から三番目の家の前に立つ。
「お前さん」
勢いよく腰高障子を開けると、愕いたような良人の顔があった。
「お民」
お民は松之助を抱いたまま、源治の胸に飛び込んだ。
「お、おい。そんなに急に抱きついてきたら、松が潰れちまうじゃねえか」
源治の慌てふためいた声が聞こえ、お民はいつもと変わらぬ良人の物言いに涙が出るほどの安堵を憶えたのだった。
長屋の木戸口が見える場所で駕籠を降り、お民は龍之助を抱いて駕籠から降りた。
元来た道を戻ってゆく駕籠を見送り、お民はゆっくり歩き出す。
見慣れた粗末な裏店の光景が何故か、無性に懐かしく感じられた。暮れ六ツ頃にここを出てから、いかほどの刻が流れたのだろう。
実際に経った時間は短かったのか、それともお民が感じていただけ、途方もなく長かったのか。
琥珀の月はまだ、天空に掛かっている。
恐らく、お民が嘉門の屋敷にいたのは、ほんの数時間のものに違いない。
木戸口を抜け、奥から三番目の家の前に立つ。
「お前さん」
勢いよく腰高障子を開けると、愕いたような良人の顔があった。
「お民」
お民は松之助を抱いたまま、源治の胸に飛び込んだ。
「お、おい。そんなに急に抱きついてきたら、松が潰れちまうじゃねえか」
源治の慌てふためいた声が聞こえ、お民はいつもと変わらぬ良人の物言いに涙が出るほどの安堵を憶えたのだった。