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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第3章 参
「面を上げよ」
 それでもなお顔を上げようとせぬお民に少し苛立ちの混じった声。
「顔を見せろと申しておる」
 お民はハッと我に返り、咄嗟に顔を上げた。
 底光りを放つ視線が容赦なくお民を捉え、がんじがらめにする。
 あまりの恐怖に膚がザワリ、と粟立った。
 が、嘉門はお民をしばし見つめ、一瞬の後、かすかに眼を細めた。
「ホウ、見違えたな」
 満足げに頷くのに、お民は小さな声で呟いた。
「馬子にも衣装と申しますから」
 当人としては、はるか上座の男には聞こえぬとタカを括って言ったつもりだったが、どうやら耳ざとく聞かれていたらしい。
 愕いたように軽く眼を見開き、お民をまじまじと見つめた。
「俺が怖ろしくて、そのように震えながらも、相変わらず負けん気だけは強いようだ」
 揶揄するような口調だが、皮肉げな響きはない。来る早々、嘉門を怒らせてしまったかもしれないと蒼褪めたお民は、そのことにホッと胸撫で下ろした。
 今日の嘉門は半月前に初めて見たときほどの陰鬱な翳りは感じられず、機嫌も良いように見える。
 こうして間近で見ると、嘉門がなかなかの男ぶりであることが判る。殊に少し上向き気味に切れ上がった二重の瞳の形は良く、これがくちなわのように冷たい光を帯びていなければと惜しまれるほどだ。
 嘉門の表情がこれまでとは別人のように穏やかなのに勇気を得て、お民は躊躇いがちに切り出した。
「あの―、私は何をすればよろしいのでしょうか」
 嘉門の表情は変わらない。
 お民は懸命に続けた。
「どのような仕事でもさせて頂きますから、何でもお申しつけ下さい」
 相も変わらず沈黙の嘉門に向かって、焦って言う。
「私、お裁縫は苦手ですけど、こう見えても料理は少しは得意なんです。亭主も私の作った卵焼きは最高だって言ってくれるんです」
 言ってしまった後、お民はハッとした。嘉門の表情が見る間に険しくなったからだ。
「そなたは下女中のように皿洗いや庭掃きをする必要はない」
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