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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第3章 参
 形の良い眼(まなこ)をまた、あの冷え冷えとした光が覆った。
「そなたの務めは俺の子を生むことだ。勘違いはせぬことだ。そなたはこの屋敷に下女奉公に参ったわけではない。この一年間、そなたは俺の側近く仕えることになる。その間は、そなたは他の誰の物でもない、この俺の所有に帰することになる。恋しい男の許に帰りたければ、一日も早く俺の子を身籠もるが良い。子が生まれた暁には、すぐにそなたを自由にしてやろう。だが、この屋敷を出るその日が来るまでは、二度と亭主はむろん他の男の名など呼ぶことは許さぬ。さよう心得おけ」
 感情の読み取れぬ眼で見つめられ、お民はうなだれた。先刻までの晴れやかな表情は一転して、嵐の前のような不穏さを帯びている。
 迂闊だった。この男の前で源治のことを持ち出すべきではなかったのだ。
 しかし、それより他に聞き捨てならぬことを言われたような気がする。
 今、この男は何と言った? お民に自分の子を生めと、それがこの屋敷にいる間のお民の務めなのだと言った。
 この男に触れられるだけならまだしも、自分がこの男の子を生まねばならない―と想像しただけで、お民は絶望と哀しみに心が張り裂けそうだった。
 たまらない嫌悪感と厭わしさが身の内を駆け抜けた刹那、お民は叫んでいた。
「私はそんな話は聞いておりません!」
 差配の彦六だって、そんなことは一切話さなかった。
「私は一年過ぎた後には、元どおりに徳平店に戻して頂けるのだとお伺いしていたのです。それなのに、私に旦那さまのお子を生めとは、どういうことなのでしょう」
 お民の眼に涙が溢れる。こんな男の前で泣くまいと耐えても、涙は堰を切ったように止まらず次々と溢れ出て、白い頬をつたい落ちた。
 そんなお民に対して、嘉門は事もなげに言い放つ。
「そちも存じておろう。当家にはいまだ嫡男がおらぬ。俺ももう三十六だ。良い加減に跡継を作れと周りが煩うてな。嫁を持つのが厭であれば、せめて側女でも持てと以前からせっつかれておったのよ。今回、やっと気に入った女が現れたのだ、そなたには是が非でも俺の子を、この石澤の家を継ぐべき男子を生んで貰わねばならぬ。そのように三門屋からも聞かされていたはずだが」
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