この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第3章 参
今回、お民が嘉門の屋敷に迎えられるに当たって、三門屋は表には出てきてはいない。
従って、お民もあの男と直接この件について話したことはなかった。
しかし、二年前、三門屋から一度だけ、妾奉公の口を紹介された時、確かにそういえば、あの男はそんなようなことを口にしていた。石澤家には現在、後嗣がおらぬゆえ、妾探しをしており、その妾に嘉門の子を生ませることが石澤家の望みなのだと。
「ですが、私は―」
あなたさまのお子など生みたくはないのです。
そう言おうとしたお民に、嘉門が口の端を引き上げる。例の、彼の酷薄さを物語るような冷淡で、皮肉げな笑み。
「三門屋が申しておった。そなたは既に一度、子を生んだことがあるとな。子は幾つになる? 健やかに育っておるのか」
お民は、涙を零しながら首を振った。
「亡くなりました。四年前に川へ落ちて―。遊びにゆくと言って出かけて、それきりでした」
流石に息を呑む気配があった。
嘉門が三門屋からどこまでお民の身上について聞き、知り及んでいるのかは判らない。
だが、源治が二度めの亭主であることや、たった一人の子が最初の良人の子で、しかも既に亡くなっていることまでは伝えていないのかもしれない。
結局、お民の身柄を石澤邸に送り込めば良いのであって、かえって余計なことまでは嘉門の耳に入れぬ方が良いと計算高い三門屋が判断したのかもしれない。
大粒の涙をとめどなく流すお民をじっと見つめていたかと思うと、嘉門が何を思ったか近寄ってきた。
嘉門は親指と人さし指でお民の頬を濡らす涙の雫を素早くぬぐい取った。
「そなたは俺の子を生むのがそれほどまでに厭か?」
短い沈黙の後、嘉門が笑った。
「だが、子を喪った哀しみは、子を持つことで幾ばくかでも薄れよう。俺は喪った子を取り戻してやることはできぬが、新たにそなたに子を授けてやることはできる。俺の子を生むが良い、お民」
初めて嘉門に名を呼ばれ、お民はハッと顔を上げた。再び皮肉げでもなく冷ややかでもない微笑を浮かべる男を、お民は茫然と見上げた。
従って、お民もあの男と直接この件について話したことはなかった。
しかし、二年前、三門屋から一度だけ、妾奉公の口を紹介された時、確かにそういえば、あの男はそんなようなことを口にしていた。石澤家には現在、後嗣がおらぬゆえ、妾探しをしており、その妾に嘉門の子を生ませることが石澤家の望みなのだと。
「ですが、私は―」
あなたさまのお子など生みたくはないのです。
そう言おうとしたお民に、嘉門が口の端を引き上げる。例の、彼の酷薄さを物語るような冷淡で、皮肉げな笑み。
「三門屋が申しておった。そなたは既に一度、子を生んだことがあるとな。子は幾つになる? 健やかに育っておるのか」
お民は、涙を零しながら首を振った。
「亡くなりました。四年前に川へ落ちて―。遊びにゆくと言って出かけて、それきりでした」
流石に息を呑む気配があった。
嘉門が三門屋からどこまでお民の身上について聞き、知り及んでいるのかは判らない。
だが、源治が二度めの亭主であることや、たった一人の子が最初の良人の子で、しかも既に亡くなっていることまでは伝えていないのかもしれない。
結局、お民の身柄を石澤邸に送り込めば良いのであって、かえって余計なことまでは嘉門の耳に入れぬ方が良いと計算高い三門屋が判断したのかもしれない。
大粒の涙をとめどなく流すお民をじっと見つめていたかと思うと、嘉門が何を思ったか近寄ってきた。
嘉門は親指と人さし指でお民の頬を濡らす涙の雫を素早くぬぐい取った。
「そなたは俺の子を生むのがそれほどまでに厭か?」
短い沈黙の後、嘉門が笑った。
「だが、子を喪った哀しみは、子を持つことで幾ばくかでも薄れよう。俺は喪った子を取り戻してやることはできぬが、新たにそなたに子を授けてやることはできる。俺の子を生むが良い、お民」
初めて嘉門に名を呼ばれ、お民はハッと顔を上げた。再び皮肉げでもなく冷ややかでもない微笑を浮かべる男を、お民は茫然と見上げた。