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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第3章 参
 源治は声にならない声を上げて、ハッとめざめた。
 長い、怖ろしい夢を見ていたようだ。
 喉の乾きを憶えて緩慢な動作で身を起こす。隣に一つ布団で眠るはずの恋女房を無意識の中に手さぐりで探していて、ふっとお民が今夜からはもういないのだと今更ながらに思い知らされる。
 今朝、別れたばかりなのに、もう十年、いやそれ以上もの間、離れ離れになっているような気がしてならない。
 今頃、お民はどうしているだろう。そう考えて、源治は怖ろしい考えにおののいた。
 何故、自分はそんな大切なことを忘れていたのだろう。いや、忘れていたわけではない。
 敢えて考えないように、頭から追い出していただけだ。
 この夜更け、お民は恐らく石澤嘉門という男に抱かれているに相違ない。お民は石澤の屋敷に何をしにいったわけでもなく、嘉門の女になるために行ったのだ。
 そして、源治は良人でありながら、自らを犠牲にしようとする妻を結局、守ってやれなかった。
 源治の脳裡に忌まわしい光景が鮮やかに浮かび上がる。
 見も知らぬ男の膝にまたがり、あられもなく白い身体をくねらせる女。女は背を向けているため、源治には女の顔は定かではない。
 だが、何度もお民を抱いた源治には、あの豊満な肢体の女がそも誰であるか知っている。
 その中(うち)、女がふと首をねじ曲げるようにして振り向いた。その間にも男は女を下から烈しく突き上げる。女が形の良い眉を寄せ、切なげな表情であえかな吐息を洩らした。
「止めろ―ッ」
 土間に降り立った源治は湯呑みを力一杯投げつけた。
 たまらない絶望と怒り、情けなさが身の内で烈しくせめぎ合う。くずおれるようにその場に蹲り、のろのろと砕け散った破片(かけら)を拾い上げようとして、〝ツ〟と小さく呻く。
 右の人さし指を切ったらしく、細く赤い血が糸を引いてしたたり落ちていた。その夜目にも鮮やかな血の色を眺めている中に、源治の中に凶暴な感情が湧き起こっていた。
―いっそのこと、お民を殺して、俺も―。
 そうだ、そうすれば良かったのだ。
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