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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第1章 壱
 今の亭主と再婚したのが今から一年前のことになる。最初の良人兵助に先立たれてから一年後、お民が二十三のときのことだ。兵助が頓死したのは兵太の死から、わずか一年後のことである。兵助は若い時分から心臓の持病を抱えていて、生命取りになったのも心ノ臓の発作であった。
 兵助は、倅の死で哀しみと絶望の底にいたお民を終始支え続けてくれた。後から考えれば、倅の後を追うような亡くなり方であった。
 源治は同じ徳平店に暮らす店子であり、お民より二つ下の二十一、兵助と比べれば見た目は月とスッポンほども違う上男である。上背もあり、大抵の男と並んでも遜色のないお民よりも更に高かった。
 性格的にはこの二人の男は実によく似ている。どちらも寡黙で、一見、無愛想、そのため、他人からは取っつきにくいと誤解され易い。よくよく話せば人嫌いでもなく、ただ喋るのが少々苦手なだけで根は至って明るい冗談好きの男なのだと知れるのだけれど、初対面の人からは、あまり好印象は抱かれないことが多かった。
 要するに感情表現が苦手な不器用な男なのだ。初めは、お民もこの源治という若者をそのように無口な男なのだと思い込んでいたものだ。だから、最初の良人兵助が生きていた頃から、源治相手に軽口をきき、世話女房よろしく顔を見ては小言の言いたい放題、世話の焼きっ放しで気のおけない隣人同士といった感じだった。
 その頃のお民にとって、源治はあくまでも〝斜向かいの放ってはおけない源さん〟だったのだ。いつもボウとしていて、何を考えているのか判らない茫洋としたところがあって、お民のからかい半分の小言もただ笑って聞き流しているだけの大人しい男だとしか思っていなかった。
 ところが、である。兵助の突然すぎる死をきっかけに、二人のそれまでの関係が微妙に揺らぎ始めた。兵助が倒れてから、ついに一度もめざめることなく逝き、野辺の送りを済ませるまで、お民は源治に頼りっ放しだった。
 これまでただ大人しいだけの、どちらかといえば頼りない男だと思ってきたのに、源治は人が変わったかのように男らしさを発揮し、常に目立たない場所からお民をさりげなく支え、庇ってくれたのだ。
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